一般向けARTICLE | NAKANIWA(ナカニワ)

NAKANIWA イベント「NAKANIWAの生い立ち」レポート

作成者: NAKANIWA|2024.07.01

中央⽇本⼟地建物グループのR&D拠点「NAKANIWA」は、同社の保有林の森をイメージした緑豊かで気持ちの切替えを促すインフォーマルなワークプレイスであり、オフィスの付加価値を高める空間づくりの実験の場でもあります。今回は2024年2月に開催された、NAKANIWA誕生に携わったみなさんによる座談会イベント「NAKANIWAの生い立ち」を取材しました。

 

NAKANIWAはどうやって誕生した?

この日は、NAKANIWA誕生に携わった皆さんが勢ぞろい。メンバーは竹中工務店の梅野さん(設計担当)、工藤さん(工事担当)、parkERs(パーカーズ)の城間さん(空間プロデュース担当)、堀部さん(プランツコーディネーター)、中央日本土地建物グループの松井さん(プロジェクト事務局)、関根さん(設計・技術部)、そして大澤さん(設計・技術部)。大澤さんはこのイベントのファシリテーターも兼務しました。

NAKANIWA誕生にいたるまで

最初にマイクを取ったのは、NAKANIWAプロジェクト事務局の松井さん。
NAKANIWAプロジェクトは2021年秋、中央日本土地建物グループの若手社員6名が集まり「これからのワークプレイスにはどういったものが必要か」という研究を行うところからスタートしたといいます。
さまざまな部署から集まったプロジェクトメンバーは半年ほどかけて議論を重ね、「R&D施設として運営し、社員の声を聞きながら、『ワークプレイスの可能性』を社員自ら検証していくワークプレイスをつくる」という、今までにないユニークなスキームでプロジェクトを形にしていったのです。

やがて設計・技術部の大澤さん、関根さんも加わり、プロジェクトは「このスキームをどうやって空間へ落とし込んで作っていくのか」というフェーズへ進みます。
設計コンセプトは「With Work, With Human, With Environment」。ワークプレイスといっても、直接的な業務の生産性を上げることだけを目的にするのではなく、そこで働くワーカーをはぐくむ、人に優しい空間であり、環境を意識したワークプレイスであること。人的資本経営、ESGといった経営・事業に関する考え方や、中央日本土地建物グループのテナント様が抱える課題を分析しながら、この場所のあり方が模索されていきました。

さらに「もっと中央日本土地建物グループらしさを表現できないか」という観点から、自社の保有林を活用するというアイデアが生まれ、「虎ノ門の森ではたらく」というNAKANIWAのテーマも設定。
この場所で検証される「インフォーマルなワークプレイスの可能性」も、parkERsのデザインアイデアによる床に敷き詰められたウッドチップ、流れる水、自然を感じるアロマや環境音などの「五感に働きかける設えの中での働き方」、そして靴を脱いで過ごす小上がりやスタンディングテーブルなどの「バリエーションに富んだ設えと、そのさまざまな使われ方」といった形で具体化されていったのです。

それぞれの個性を持った「中央日本土地建物グループの森」

続いてマイクは設計・技術部の関根さんに渡され、自社保有林について紹介がありました。
2カ所ある保有林のうち、山梨県山中湖村の保有林は約18ha。山中湖の西側に面し、東寄りのエリアからは富士山も見えるといいます。平坦地でありながら苔などのさまざまな自然物があることも特徴の一つです。そしてプロジェクトメンバーの皆さんは、実際に保有林から切り出してきた木を見ながら、NAKANIWAのイメージを膨らませていったのだとか。

もう1カ所、神奈川県平塚市の保有林は約85ha。平塚市北西部、吉沢(きさわ)地区に広がっています。山中湖村の保有林よりも居住地区が近く、地域や市、地元の大学、そして中央日本土地建物グループが「産・官・学・民」一体となって、生物多様性の保全や地域共生・活性化に向けた活動を行っているそう。このエリアは「生物多様性豊かな“湘南平塚ゆるぎ 里地里山”」と名付けられ、2024年3月に環境省の「自然共生サイト」に認定されたといいます。

実際に触れて感じた「森って思っていたよりも自由だな」

今回の座談会のメンバーは、全員がこの保有林へ直接出向き、実際の森のイメージを共有したそう。なかでもparkERsの城間さんは、森の中では「椅子の代わりに転がっている丸太へ腰かける」「足腰がきついと感じたら足元の枝を拾って杖にする」など、自然物を柔軟な発想で役立てられることから「森って思っていたよりも自由だな」という印象を持ったのだとか。そして、設備などの役割を決めつけてしまいがちなオフィスにも、この自由な発想を取り入れたいと考えたといいます。

森や木材への思い入れが結実した設計・施工

なぜ、今「都市木造」なのか?

次にお話しくださったのは、設計を担当した竹中工務店の梅野さんです。
国土の約70%が森林という、世界でもまれに見る森林大国・日本。戦後、資源となるべく植えられた大量の木々は主伐期(成長を終え活用する時期)を迎えているが、そのかつての木活用サイクルは崩れつつあり、CO2 吸収・排出のバランス悪化が懸念されているといいます。
そこで今、梅野さんたちが考えているのが、都市の建物を木造化することで建物をCO2の貯蔵庫のように活用し、さらに伐採された跡に新たな苗木を植え、その苗木が新たなCO2を吸収する循環サイクルを再構築しているのだとか。

竹中工務店は2012年から木造建築の耐火性向上、高層化に関する技術開発を進めてきたとのこと。現在、木造建築物は既に高さ制限が必要ないほどの技術レベルに到達しており、実際に高さ100mの高層木造ビルも建設され始めているといいます。こうした技術が、NAKANIWAにも反映されているのです。

自然が相手だからこそ一筋縄ではいかなかった

続いて工事担当の工藤さんも加わり、保有林の木から作られているNAKANIWAの内装材や、家具についてお話しくださいました。

一般的には目のないきれいな木材を良しとするケースが多いなかで、NAKANIWAの「森の景色をそのまま持っていきたい」という思いを実現するため、試行錯誤を繰り返したそうです。

例えば、山中湖村の保有林で育ったカラマツは真っすぐなところが特徴ということで、その木材がNAKANIWAのルーバーに使われています。
通常は不適と見なしてはじくような皮付きの木材も、森の中にいる雰囲気を出すために有効活用しようと試みましたが、反りが出て使えない木材が2~3割も出てしまったり、ルーバーとして施工した際、脂(やに)がつららのように垂れ下がったりしたのだとか。
また、樹皮を残してルーバーにすると、一つひとつの部材の表情が違うので、施工者のセンスが問われるとも感じたそう。
そして工期との兼ね合いでは、通常より短期間の4カ月で乾燥させなければならなかったため、ひとつの断面を小さくすることで乾燥スピードを速めるなど、技術者の工夫で難局を乗り越えたのだといいます。

こうしたみなさんの尽力もあり、プリント合板の整った木目では出ない奥行きを感じられるルーバーに仕上がったのです。

保有林を身近に感じられる植栽計画

保有林の魅力や活かし方を伝えたい

そしてマイクは空間デザイン・設計監修を担当したparkERsの空間プロデュース担当城間さんへ。parkERsでは、中央日本土地建物グループの保有林の魅力的や、保有林の活かし方をNAKANIWAの利用者に理解してもらえるよう意識しながら、植物や木材、水の要素をデザインに落とし込み、さらにはアロマや音楽などのコンテンツを作っていったといいます。

2種類の「植生図」

植栽を担当するプランツコーディネーターの堀部さんは、お話にあたりまず2種類の「植生図」をスクリーンに掲出されました。ひとつは、山中湖村にある保有林の「現在の植生図」。もうひとつは、同じ山中湖村の保有林でも「人間の手が加えられず、本来の植生に戻った場合の植生図」でした。そしてNAKANIWAの植生は、後者の「本来の植生に戻った」状態に沿って再現されているのだとか。

ご神木を意識したシンボルツリー

NAKANIWAの4つのエリアの中心にあるシンボルツリーは、平塚市の保有林で実際に生育している「ご神木」をイメージしたものだそう。そして、NAKANIWAの「ご神木」は1本の木ではなく、複数の木が集まった姿が「1本の大木」に見えるように植え込みされているとのことです。

オリジナルのアロマとサウンド

NAKANIWAで焚かれているオリジナルのアロマについての話題では、椋(むく)の香りがベースになっているアロマの容器が客席に手渡され、お話を聞きながら一人ずつアロマの香りを確かめました。
また、鳥のさえずりや木々のざわめきなど、NAKANIWAで流れている心地よい音は、実は城間さんたちが車中泊しながら、24時間かけて収録した自然音。1時間のあいだに、1日の経過が感じられるような構成になっているといいます。
ちなみに城間さんはこの収録の際、早朝にイノシシの足跡があるのを見つけ、目に見えないところにも生態系があることを実感されたのだとか。

NAKANIWAの今後について

NAKANIWAで体験した感覚を自ら表現してほしい

現在は、ワークプレイスとして「一人で集中して作業したい時に良い」「アイデア出しの打ち合わせがはかどる」といった評判が広がり、徐々に利用者が増えてきているNAKANIWA。植物に触れて環境意識の向上につなげるワークショップなど、さまざまなイベントも開催されています。老若男女・立場や役職を問わず参加者が集まるので、部署を超えたコミュニケーションのきっかけにもなっているのだそう。

これまでのイベントについて紹介してくれた関根さんは、NAKANIWAの『今まで接する機会のなかった同僚や上司、部下と気軽にしゃべれる』雰囲気が、オフィスの付加価値を高める空間づくりには大事だと感じているとのこと。また、「コミュニケーションの機会を増やすことで、当社としてもチームビルディングのために空間を上手く使う方法として、うまくブラッシュアップしてオフィスビル開発に還元できればうれしい」といいます。

また松井さんは、事務局としてNAKANIWAに携わるなかで、保有林を活用した家具や、実際の植生など「“偽物”がない空間だからこそ、体験するだけで価値が感じられて、数値的な結果を求めたりしない。この『体験価値』はかなり評価されていると、さまざまなゲストを案内していても感じます」と、手ごたえ十分の様子。
座談会参加者のみなさんにも「NAKANIWAは社員一人ひとりがR&Dメンバーとして実証実験を行う場なので、社員のみなさんが自ら積極的に利用して、その時の感覚を自らの言葉で表現していってほしい」と呼びかけます。

この日、ファシリテーターを務めた大澤さんも、「NAKANIWAはこれで完成ではなく、ここからさらにつなげていくというのがプロジェクト立ち上げから大切にしてきた思いです。ぜひみなさんも“つなげていく”一人として使っていただければ」と、NAKANIWAを皆で育てていくことへの期待を寄せていました。

まとめ

NAKANIWA誕生までのストーリーだけでなく、携わった人々がNAKANIWAに寄せる想いまでも共有することができた座談会「NAKANIWAの生い立ち」。1本の木がさまざまな生命の種をつなぎ、やがて森となっていくように、NAKANIWAもこの日この空間にいたみなさんが持ち寄る希望の種をつなぎ、大きく育っていく……そんな未来が垣間見えたひとときでした。