中央⽇本⼟地建物グループのR&D拠点「NAKANIWA」は、森林をイメージしたユニークなワークプレイスであり、オフィスの付加価値を高める空間づくりの実験の場でもあります。
このNAKANIWAで行われたイベント「Urban Challenge co-creation(都市課題共創) Workshop」を取材してきました。
2024年5月、世界各地のサステナビリティ都市開発事業を推進する組織「BLOXHUB」の協力のもと、「Urban Challenge co-creation(都市課題共創) Workshop」がNAKANIWAで開催されました。
BLOXHUBは、サステナビリティ事業に関わっている約350の個人や企業が会員となっており、デンマーク・コペンハーゲンの複合施設「BLOX」内に同名のイノベーション拠点を構えています。フリーランスからスタートアップ、グローバル企業、大使館までさまざまな会員が共創する様子は、中央日本土地建物グループが運営するオープンイノベーションオフィス「SENQ」の在り方とも通じるものがあります。
この日はBLOXHUBのグローバル ネットワーク & パートナーシップ担当ディレクターであるジェイコブさん、BLOXHUBの会員でSmartCityInsightsのビジネスオーナー兼ディレクターのピーターさんがワークショップを進行。中央日本土地建物グループの社員や、SENQのパブリックパートナーである自治体職員さまなど17名が参加し、「栃木県宇都宮市が直面している都市課題」をテーマにさまざまな課題解決策を探っていきました。
メインテーマのディスカッションに先駆けて、ジェイコブさん、ピーターさんからBLOXHUBとSmart City Insightsが世界各地で取り組んだ3つの事例が紹介されました。
1つ目の事例、メキシコ・メキシコシティとコロンビア・ボゴタでは、この2都市に共通する課題である「ソーシャルインクルージョン(社会的包括性)」の格差解消や、都市に求められる要素としてヨーロッパではポピュラーな「15minutes City(15分都市:買い物や通院など、日常生活に必要なすべてのアメニティに15分以内でアクセスできる街)」などの紹介がありました。この地域の抱える上記のような課題解決のため、人々の意見が交わされ、ピーターさん自身も非常に刺激を受けたとのことでした。
2つ目の事例、カナダ・バンクーバーは、世界各地の大都市などで構成される「C40(世界大都市気候先導グループ)」の取り組みとともに、モビリティに関連する課題や、暮らしやすさ、サステナビリティといった分野に注目、特化してプロジェクトを進めているのだそう。
3つ目の事例はBLOXHUBの拠点でもあるデンマーク・コペンハーゲンの取り組みについて。1960年代、駐車場と建物がぎっしり詰め込まれて「楽しむ要素」がなかった市街地ですが、現在はスポーツができる広場、オープンな公園が広がり、学校を整備し、子どもたちも行き交うようになりました。 密集していた自動車は地下駐車場に収容され、公園は貯水機能も兼ねるなど「生活者に近いデザイン」や「ひとつのエリア・施設がさまざまな役割を兼ねている」ことが特徴なのだそう。
「15minutes」のために自動車を使うのか、その場合CO2削減はどう進めていくか……といった複雑な課題を自分達にはない新しい視点から見ていき、新しいアイディアを生み出すのがこのワークショップの目的なのだといいます。
本日のワークショップのテーマは「栃木県宇都宮市が直面している都市課題」ということで、続いては宇都宮市職員の馬場さんによる、宇都宮市の現状と課題の紹介です。
人口50万人の宇都宮市は、国内の中核市の中では農業・工業・商業のバランスが取れており、この点ではコペンハーゲンにも似ています。しかし、デンマークの首都であるコペンハーゲンには大手企業の「本社」が多いことに対して、宇都宮市は大手企業の「製造拠点」が多いところが特徴だといいます。
再開発にあたっては、「NCC(ネットワーク型コンパクトシティ)」を土台に、「地域共生社会」、「地域経済循環社会」、「脱炭素社会」の3 つの社会が、「人」づくりの取組や「デジタル」技術の活用によって発展する「スーパースマートシティ」を宇都宮市が目指すまちの姿とし、宇都宮駅の東側、約15kmの区間にわたって「LRT(次世代型路面電車システム)」を整備。2030年代前半には、同駅から西側に整備する計画もあるとのことです。 課題として挙げられた点は、門前町から城下町、宿場町へと変化してきた宇都宮市では80年代に大いに賑わった百貨店がその後撤退し、近年自家用車に依存して郊外化が進行したことです。市街地には映画館や美術館などの施設はないものの、公園や歴史スポットなどは豊富だといいます。
これから実際にディスカッションを展開するテーマだけに、発表の後には多くの質問が寄せられました。例えば「市街地に百貨店を再び招致したいか」という問いには「百貨店については意見が分かれる面がある。個人的にはコペンハーゲンのメインストリートであるストロイエのように、個性的な店があって、そこに人が来る市街街がいいと思う」、「LRTのユーザー層はどういった人々か」という問いには「平日は通勤・通学利用が多く、土日はファミリー層が利用している」という回答がありました。 また「都心のカフェでは中高生が勉強するために飲み物を買っている。都市開発で子どもの居場所が有料化するのはいかがなものかと思う」という意見には「宇都宮市では街なかで若者が交流できる場を作るなど、解消に取り組んでいるが、そのためのアイディアもぜひ寄せてほしい」と回答がありました。
次はいよいよ、ワークショップの参加メンバーを4つのグループに分けてディスカッションに取り組みます。
大テーマは「宇都宮市の中心部を生活しやすく、サステナブルな都市にするためには?」です。
1stディスカッションで考えるべきポイントは次の3つです。
「ワークショップでは往々にしてすぐ解決策を出そうとしがちだけれど、今は徐々に発想を広げる段階にある。視点が狭まらないように進めていきましょう」というアドバイスも受けながら、各グループ、活発に意見を交わしていきます。
20分間のディスカッションを経た各グループの発表では、下記のようなアイディアが披露されました。
グループ (発表順) |
メインチャレンジ | インサイト |
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1 | 車がなくても安心安全で楽しく便利な生活を確実に担保 | 物流すらもトラックを利用しない新モビリティ、人を呼び込む仕掛け |
2 | 公共交通のトランシジョン | 若い世代と高齢者が公共交通を利用する方向性で街を再構成する |
3 | どんな街にするか皆が理解し調和している状況を作る | その状況への道筋を見える化していく |
4 | 人が集まる明確な『目的地』となる場所を | 住民の地域愛・エモーションを活性化・共有する |
この発表を受け、ピーターさんから「ジェンダーや年齢など、異なるグループをどうつなげるかという観点が必要になってくる」というアドバイスとともに、アメリカ・テキサス州オースティンの事例が紹介されました。
同市は「オースティン シティアップ」と銘打ち、さまざまな視点を持った人々が2年間かけて洗い出した100の問題点を、さらに2年かけ「本当に取り組むべき」34の問題点にまで絞り込んだそう。そこでは、住民にとっての問題点は何か、どうすれば解決できるか、どこに投資するべきか、といったことをさまざまな視点から追求していったといいます。
休憩をはさんで、今度は後半のディスカッションがスタートします。大テーマは1stディスカッションと変わらず。ここで考えるべきポイントは次の4つです。
30分間のディスカッションを経た各グループの発表では、下記のようなアイディアが披露されました。
グループ (発表順) |
|
---|---|
1 | 宇都宮市に出入りする交通量、物と人のデータを取り、オープンソースとして企業に提供し、物流の相乗りなどで交通量減少を図る。ファシリテーターを置き、メソッドを伝承していくシステムで横展開 |
2 | 街づくりを自分事化するために人流データやAIカメラのデータなどをビッグデータとしてビジュアライズ(見える化)。市民や企業など街づくりに関わるステークホルダーにシェアしていく |
3 | ゴミ廃棄量のデータを取り、量が少なければインセンティブを与えるといった「法律・条例改正を伴わない行動変容のきっかけ」を作る。タウンホールミーティングで、行政と市民が互いの状況を理解するきっかけを作っていく |
4 | 人流データ、行動データに加えて、満足度などの感情データを取り、位置情報や属性に応じたプッシュ通知的な情報提供を行う。行政で横展開できるように、全国的な共通基盤やルールを作る |
これを受けてピーターさんはまず「皆さんのお話には、見方として共通している、つながっている問題があると感じました」とひとこと。タウンホールミーティングのアイディアはとても面白いし、例えばそこへどんな人がどんな交通網を使ってきているかというデータも取れる、そしてそのデータを可視化していくことも……と続けました。
最後に、コペンハーゲンを中心とした都市圏10都市がデータを共有し、問題を解決している「データラボ コペンハーゲン」の事例を紹介。
「どのようなデータがあれば問題解決に繋げられるか」という話し合いを1年間続け、取得すると決めたデータ項目には、住人・ツーリスト・ワーカーに細分化された人流データや、居住者の居住年数、家族構成、転居歴などのデータ、購買行動のグループデータ、交通系ICカードの記録による移動データ、Facebookのコミュニケーション内容による感情データなどがあったそうです。
地域ごとにデータを見ていくことで、どんな人たちがそこでどれぐらい長く活動してきて、どういう感情にあるのか、ということを分析し、そのエリアに関しての具体的な打ち手を考えていったといいます。
最後のまとめとして今回のワークショップを企画した中央日本土地建物 事業統括部 イノベーション開発室 中川さんは「このワークショップについて最初に話をした時、ピーターさんやジェイコブさんから『中央日本土地建物グループのエコシステムを体験できるような参加者を集めたい』と言われたのです。思いもよらないことでしたが、社内メンバーと考えるうちに『それは自治体さんだ』ということになりました。今回のワークショップは、本当のエコシステムを作るためのインキュベートでもあるかもしれません」と締めくくりました。
BLOXHUBのメンバーも「参加者へアウトプットするだけでなく、自分たちにも大変興味深い学びがあった」と評したこのワークショップ。参加者の皆さんからも、「普段は一緒にワークをする機会がないメンバーでのワークショップは良い経験になった」「実際の都市の課題をテーマにして行うワークショップは臨場感があった」などといったコメントが寄せられており、街づくりについてさらにアイディアを深める好機となったのではないでしょうか。