中央⽇本⼟地建物グループのR&D拠点「NAKANIWA」は、森林をイメージしたユニークなワークプレイスであり、オフィスの付加価値を高める空間づくりの実験の場でもあります。
このNAKANIWAで行われる全5回のワークショップイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」の第2回目を取材してきました。
2024年10月、NAKANIWAで全5回のワークショップイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」の第2回目が開催されました。2024年7月に開催された「みんなで考える“みらいのワークスタイル”ワークショップ」のセッションを生かしながら、これからのまちづくりのコミュニティを通じたアプローチを探っていくシリーズです。これは単なるワークショップにとどまらず、最終回で提案された内容は精査・選択した上で2025年虎ノ門エリアにてトライアルを実施することを目指しています。 第2回目のワークショップのテーマは「『ゴール』に向けて走り始めよう」です。
まずはチェックインとして、NTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの尾崎さんのリードで「Good&Newの共有」が行われました。参加者が好きな季節別に3~4名のグループを作り、1人1分の持ち時間でこの1か月の「良かったこと」や、「新しい気づき」をメンバーに伝えていきます。
7月に発行されたばかりの新紙幣の話題、家族や子どもの話題、アウトドアの話題などさまざまなGood&Newで少しずつ参加者の緊張した空気がほぐれていく様子が伝わってきました。
次は同じくNTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの山下さんによるブレイキングセミナーです。本ワークショップのテーマに合わせ、日本各地のユニークなコミュニティが紹介されました。
奈良県生駒市の「まほうのだがし屋 チロル堂」は、18歳以下の子どもだけが回せるカプセル自販機を設置。中には駄菓子やカレーを買える独自通貨が入っていて、その資金は大人に販売するお酒や食事、弁当などの代金の一部から寄付されているのだそうです。
神奈川県愛川町の「春日台センターセンター」は、高齢化率30%を超えた春日台団地内にあるスーパー跡地に、誰でも利用できるスペースやスーパーの名物だったコロッケのお店、障害者就労支援を兼ねたコインランドリー、寺子屋、高齢福祉サービスが集まった複合拠点です。
千葉県八千代市の老人デイサービス施設「五十二間の縁側」は、南北に長い建物が特徴的。カフェやテラスに加えて、旅館のようにモダンなデイサービス用浴室、子どもたちの遊び場となる小さな池などがあり、施設利用者だけでなく家族や地域の子どもたちも思い思いの時間を過ごしています。
山下さんはこの3つの例について「全ての施設が計画段階から住民との対話で成り立っている」こと、「すべての人々が幸せにすごせる空間となり、結果的に高齢者や障害者、生活困窮者にとってもよりすごしやすいコミュニティとなっている」ことが共通しているとまとめました。
続いて、NTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの江井さんのファシリテートによるワークショップのスタートです。
本日の到達点は「ゴールに向けて自分たちにできることを明確にする」こと。参加者は「コミュニティを生み出す」(A、Bチーム)、「コミュニティを大きくする」(C、Dチーム)、「コミュニティがアクションする」(E、Fチーム)という3つのゴール/6チームに振り分けられました。
今回の参加者は、宿題として、第1回目で話し合った内容を踏まえた「ゴールに向けて自分たちができること」のワークシートを作成していました。そこでまずは、各チームのメンバーごとに5分間の自己紹介とワークシートのプレゼンテーションが行われました。
それぞれの「ゴールに向けて自分たちができること」が出揃ったところで、次はチームでのグループディスカッションによる「共創タイム」です。メンバーのアイデアを持ち寄り、ゴールに向けて「チームとしてのベストは何か」を考えていきます。
グループディスカッションの後は、各チームの代表が話し合った内容をまとめて、発表しました。
「コミュニティを生み出す」チームAは、コミュニティを生み出すための「軸」が必要だと考えました。しかし、コミュニティマネージャーのような存在だけでは負担が大きく、その人の熱量に左右されることから、システムの手を借りることに思い至ったそう。
「ビッグデータを使って客観的なデータからテーマを絞り込み、出てきたテーマについてAIにも考えてもらう。“コミュニティのきっかけ”の部分を担ってもらおうと考えています」。
また、コミュニティ運営については志ある人を頼るのみだと難しい一方、AIにも全ては任せられないことから、「座組でコミュニティを作っていく意識も必要だ」としました。
石川さんは「期待しかない。素晴らしいですね」と絶賛。「『軸を持つ』ことと『AI活用』、『AIに全てを任せない意識』という、この3つをやり切ったら新しいコミュニティの運営のプラットフォームは本当に素晴らしいものができるんじゃないかと期待しています」と続けました。
チームAも「ビッグデータ活用の話はある一方で、意外とビッグデータ起点のコミュニティはないという気がしていて。データやAIの力を借りることで、コミュニティのきっかけ作りはもっとできるんじゃないかと」と応じました。
「コミュニティを生み出す」チームBは、まず「成功するコミュニティを生み出す仕掛け」についてアイデアを出し合ったといいます。
さまざまなアイデアが出てくる中で、チームBは一度立ち止まり「コミュニティやビジネス開発で先進的な取り組みも多い虎ノ門で、埋もれないようにするにはどうしたらいいのか」を考え、「組織ではなく個にフォーカスするような場作り、コミュニティを生み出すということが必要ではないか」という仮説に至ったそう。
「そこで『リラクゼーションはどうか』ということになり、『健康ランド虎ノ門』というコンセプトに行きつきました。とにかく疲れた環境にいるビジネスマンをまずは癒そう。そこにはサウナ・銭湯、自然環境、昼寝ができる場所、食事ができる場所があって、そこでアイデアを出し、見える化して繋げていくことで、仕掛けのエッセンスを組み合わせた場ができるのではないかなと」。
石川さんは「虎ノ門にあるんだけれども、日本中のエリアの人たちがそこへ来たら楽しめるとか、疎外感なく溶け込めるとか、アイデアを出せるとか、繋がれるという仕組みがどこか1つあると、もっと広がりが出てくるような気がしました」と提案しました。
「コミュニティを大きくする」チームCは、まず「数十人から数百人に爆発的に数が増えていく時に何が必要か」をまとめたといいます。
「コミュニティに属している人たちが、自分たちのやっていることやその場所に誇りを持ち、活動について人に伝えたいと思っていることがまず大事かなと思いました。その人たちが広げていくことによって、一気に数十人が数百人に増えていくかなと。後は『コミュニティが広がったのちにそこへ定着すること』が必要だと考えました」。
そして、この定着にあたりチームCが注目したのがデジタル化でした。「コミュニティに参加している人たちが『今日行こうかな』と思った時に、そこの状況や、そこにいる人たちが今どういう状態にあるかが見えることも大事かなと思います。これらを掛け合わせることによって、コミュニティが定着するところまで持っていけるのかなと」。
さらに、コミュニティ活動がボーダレスで、言語の壁がなく、オンライン・オフラインの壁もない、基本的に全てにおいてシームレスであるべきだということも訴えました。
まず江井さんが「コミュニティを自分たちでちゃんと愛そうよ、周囲から愛され続けるコミュニティにしようよ、というメッセージが入っていて、気持ちと具体性があって、すごくいいなと思いました」とひとこと。
石川さんも「テナント事業って『テナントで坪いくら稼ぐか?』というところが今までの限界じゃないですか。だから『その限界を突破しませんか?』といつも考えていて、チームCのアイデアにはそれが期待できるのかなと思います」といいます。
そして江井さんが「『どれだけ愛されるか』が不動産価値ですから。頑張って愛されていきましょう」とまとめました。
「コミュニティを大きくする」チームDはまず「場を用意しただけでは人は集まらない、繋がらない」ことに着目し、趣味趣向を持った人が集まるきっかけを作れるイベントを継続的に作っていくことが必要だと考えたといいます。
また2つ目の視点として「大企業の多い虎ノ門エリアは住んでいる人より働いている人が多いのではないか」という仮説を立て、平日に虎ノ門で何ができるかを考えました。
「会社単位ではなく、異なる会社で働く人同士が集まりたくなるような仕掛けや、コミュニティを作りたくなるようなきっかけを作っていきたい。
さらに、コミュニティを大きくしていくには、リアルの世界だけでは限界があることにも気づきました。メンバーにはDAO(分散型自律組織)を手掛ける会社の方もいらっしゃいますので、世界と虎ノ門を繋げてコミュニティを作るために、オンラインのプラットフォームを作って運営していく。これからそういったことを視野に入れて考えていきたい」。
これには江井さんも「『ローカリティ』と『世界に広がる感じ』の両方があって、そこに可能性を感じました」と期待をのぞかせます。石川さんはコミュニティとして “濃く”なりながら大きくするのか、まずは濃淡を問わず大きくしていくのかに触れ、「コミュニティが大きくなっても、社会課題を解決するプラットフォームとして薄まったとなると主客転倒してしまうので、そこのバランスをどう取るのかは、とても重要だと思います」とまとめました。
「コミュニティがアクションする」チームEは、自己紹介の中で、全員が飲み歩きや地域のイベントといったことに関心があり、ローカルなコミュニティが原体験にあるという特色に気づいたのだそうです。
「街の素地に核となるコミュニティの種のようなものがあって、それがそこにしかなければ、世界中から人が集まって来るのではないかという話が出てきました」。
そして、このコミュニティの種を育てるための情報共有の仕組みを考える中で、「バーのようなリアルの場所でおすすめ情報を集めている」という話も出てきたといいます。
「そういう場所で出会う『街の案内人』が15年後も虎ノ門にいるだろうか?と考えると、昔に比べて地価も物価も上がって、人手も不足している中では限界なんじゃないか……という話にもなりました。
ただ、街としてプラットフォームを作り、プレイヤーを育て、増やし、繋げていく方法であれば、取り組み得るのではないかと。サードプレイスを作って運営する人自体を育てる。
そこも含めて最初のコミュニティになるような仕組みや、その地域の方を集めて、何ができるのかという方向の議論をしました」。
江井さんは「衝撃的でしたね。素地、孵化器としての街。そういった議論が入っていて、私はグッときました」と驚いた様子です。石川さんは「自分たちの場所というよりも、みんなが来られる場所。サードプレイスを目指すのが面白いというのは確かにありますね。非常に必要な意見が入っている。Eチームのアイデアからは、楽しいエリアマネジメント、コミュニティマネジメントが実現しそうな気がします」とまとめました。
「コミュニティがアクションする」チームFは、「相互作用」や「経済循環エコシステム」の観点で考え、「ターゲットをどうするか」「経済循環をどう考えるか」「何をやっていくか」という3点に関する意見が主に出てきたといいます。
「まずターゲットについて、オフィス街なので『オフィスワーカー』が中心になる環境で、植物や動物に配慮した多様性、季節の多様性を考えていけないか?という話になりました。
なぜかというと、メンバーに里山を維持保存する活動をされてきた方がいて、そういう生物多様性を絡めていくと面白いんじゃないか、環境という観点から人を集められるんじゃないかと。
もう1つのターゲットとして、『親子』も出てきました。オフィスの中で、ビジネスパーソンだけがいるよりは親子が入ってきた方が、打ち解けられるんじゃないか、仕事という発想から脱却できるんじゃないか……といった発想からコミュニティを作っていく重要なキーワードになるのではという話になりました」。
「経済循環については、メンバーにNFTとかトークンを扱いながらインセンティブ設計をしている方がいらっしゃって、そこで『コミュニティの回り始めにはインセンティブ設定が非常に大事だ』という意見があり、そこで回り始めたものをドライブしていく発想ができないかという話に至りました。
具体的に何をやるかというところでは『特別な体験を共有できないか』という話になりました。コミュニティがドライブしていくには、まず結束していく、深めていく必要がある、それは特別な体験を共有し合うことで実現するのではないかと。
あとはマネタイズですね。特別な体験を共有するにあたっては施設の共用部を使っていくのですが、建物の共有部はお金を生まない場所=遊休地になりがちだと。そこで何かしらのコンテンツを提供することによって、マネタイズできないかと考えました」。
石川さんはまず「大変イノベーティブだと思いました。ちょっと運営チームの思考が堅くなってしまっていた、という反省を僕はしていました」という感想を述べました。
「虎ノ門はすぐそこが官庁街という『国』に一番近い場所で、大企業も中小企業も集まれて、東京駅も近い。どちらかというとビジネス領域の人たちが……と思っていて、里山の人たちや、親子っていうフリンジを考えていなかったんです。発表を受けてそこを反省しましたし、素敵だなって思いました」といいます。
さらに「遊休地のCSR領域をどうやってCSV領域へ変えるかは、アイデアとプロジェクトを実装しないとできないので、ぜひ深掘っていきましょう」と激励しました。
次回は、第2回までに発表し、話し合った内容を踏まえて、「具体的なアクション」を考えていく予定です。机上で考えるだけでなく、社会実装を目指して進み続ける参加者たちに、今後も注目していきます。