中央⽇本⼟地建物グループのR&D拠点「NAKANIWA」は、森林をイメージしたユニークなワークプレイスであり、オフィスの付加価値を高める空間づくりの実験の場でもあります。
このNAKANIWAにて、虎ノ門エリアに縁のある皆さんを集めて開催された「Toranomon Free Magazine 60min 特別企画『まち×愛着』シリーズ第2弾~TORANOMON PALETTE~」を取材してきました。
中央日本土地建物グループでは、虎ノ門エリアのエリアマネジメントの一環として2020年から年4回、フリーマガジン『Toranomon Free Magazine 60 min』を発行しています。『トラノゲート』の新築工事も進む中、『ともに考え、ともに創り、ともに未来へ』という企業理念を掲げる同社グループが、エリアで働く人々とともに、虎ノ門の未来を一緒に考える場として、「Toranomon Free Magazine 60min 特別企画『まち×愛着』シリーズ」を企画・開催しています。
2024年1月に実施した「エミーゼニーワークショップ」 に続き、シリーズ第二弾となる今回の「TORANOMON PALETTE」では、虎ノ門で活動する皆さんと一緒に、この街への愛着を深め、つながりを強めてコミュニティ形成を促していくことを目指しています。
虎ノ門の老舗文具店「オカモトヤ」さん、同店と親交の深い大阪・梅田の文具店「ギフショナリーデルタ」さんの協力により、インク調色のワークショップを実施。参加者が虎ノ門の風土や歴史、そして皆さんのアイデアからインスピレーションを得て、この街を象徴する「虎ノ門の色」を作り上げます。
この「色」は今後、虎ノ門に関わるさまざまな方々が自由に使える形で共有され、街を一緒に盛り上げていくひとつのシンボルにしていきたいと考えています。
イベント開始直前のNAKANIWAでは、「痛風腰痛持ち、裸一貫でたたかうサラリーマン」のキャッチフレーズで知られ、2024年度から港区観光大使も務める人気者、虎ノ門の妖精こと「カモ虎課長」が参加者を出迎えました。各テーブルでは挨拶や名刺交換も行われ、和やかな雰囲気です。
ナビゲーターを務めるグー・チョキ・パートナーズ株式会社の小野寺学さんは、「今日は虎ノ門の色を決める歴史的な日です!」と宣言。虎ノ門のお隣である新橋エリアには、明治中期、舶来の化学染料で染めた鮮やかな青緑色を東京新橋の芸者たちがこぞって愛用したことに由来する日本の伝統色「新橋色」があること、虎ノ門の地名の由来、江戸城の虎ノ門は「白虎」を象徴していること、カモ虎課長の基本カラーは「サラリーマンのスーツにちなんだ紺色と、その補色である黄色に近いオレンジ」であることなど、虎ノ門周辺と色のエピソードについて紹介しました。
さらに、虎ノ門に縁の深い人々が「虎ノ門の色」について語るインタビュー動画を上映。「虎ノ門の色」のイメージについて、オカモトヤの鈴木眞一郎会長は、「動物のトラにちなんだ黄色と黒」や、「いろいろな色を掛け合わせてできる色」を、虎ノ門書房の吉岡広一郎会長は、「虎ノ門の交差点から毎日見ていた文部科学省のレンガの茶色」を挙げます。
港区観光大使の「地理バッ地理(R)先生」こと澤内隆先生は、諸説ある江戸城虎ノ門の名前の由来、その中でもよく取り上げられる方角の「白(びゃく)」について解説しました。
動画鑑賞に続いて、参加者によるワークが始まります。まずはクラウドツールである「Slido」の「ワードクラウド機能」を使用して、虎ノ門の色のイメージを表すキーワードを参加者がそれぞれ入力します。すると「ワードクラウド」上にその内容が可視化されます。「銀座線」「カモ虎課長」など人気のキーワードが大きく表示されました。
そして参加者はチームに分かれ、自己紹介をしながらグループ名を決めていきます。グループのメンバー全員でカラーチャートをのぞき込んでみたり、カモ虎課長もちゃっかり話に混ざってみたり……あちこちから笑い声も聞こえてきました。
その後発表されたチーム名も、この日のランチの話題から、メンバー全員がおでん好きだと判明した「おでん」チームや、Nさん、Mさんなど五十音順だと真ん中よりやや後ろになる名前のメンバーが集まっていた「出席番号ちょい後ろめ」チームなど、各グループの楽しそうな雰囲気が表れていました。
ここで、今回のワークショップの講師である、「ギフショナリーデルタ」の“デルタボス”ことマエダタケシさんが登場。企業CI(コーポレート・アイデンティティ)を例に「色が決まると、不思議といろんなプランがそこへ向けて走っていく。そういう虎ノ門カラーを作りましょう」と参加者に呼びかけます。
参加者はマエダさんのナビゲートで、ワークシートに「自分の好きな色」や「虎ノ門の色」を書き込み、カラーチャートの見方など「色の基本的な考え方」についてレクチャーを受けました。さらにインクの種類などの基本も教わり、テーブルに用意されたインクをワークシートに塗って、調色前の“そのままの色”を確かめます。
インクを塗る際に使ったのは、この日のためにマエダさんが全員分を用意したというガラスペン。普段触れる機会の少ないガラスペンを興味深く、慎重に手に取る参加者の姿が多く見られました。
インクの色を確かめたら、いよいよパレットを使って色を作る作業の始まりです。参加者たちはどのインクを何滴入れてどんな色を作ったのか、記録を取りながら慎重に混ぜていきます。
マエダさんからは、「多くの色を混ぜるほどグレーや茶色、黒といった暗く彩度の低い色に近づくので、3色程度を混ぜると作りやすい」「強すぎる色はあらかじめ専用のうすめ液で薄めて混ぜる方法もある」など、作業の間にもさまざまなアドバイスが発信されます。
マエダさんによると、「文具愛好家はいろいろなものをイメージしたオリジナルのインクを作ることがよくある」そうで、ご自身も、お店がある大阪・堂島の薬師堂をイメージした色のインクを作ったことがあるとのこと。それだけに、どんな虎ノ門色が誕生するのか楽しみだと語っていました。
各テーブルの上には、新橋の印刷会社「河内屋」さんから提供された文具ブランドKUNISAWAの試筆紙も用意されていました。マエダさん曰く「インクは紙によっても色の見え方が変わる」そうで、いろいろな紙に書いて色を確かめると良いのだそう。文具愛好家にはたまらない銘品が並ぶテーブルに、小野寺さんも「今日はいいこと尽くしです!」とワクワクしている様子です。
一方、参加者たちはお茶やお菓子を勧められてもしばらくは誰も席を立たないほど、調色作業に集中していました。それでも徐々に、出来上がった色を見せ合ったり、テーブルにお菓子を持ってきて配ったり、楽しそうに話をしながら作業をする姿も見られました。
楽しい調色ではありますが、最後は虎ノ門の色を決めねばなりません。小野寺さんの声かけをきっかけに、各グループは「なぜその色を作ったか、虎ノ門の色について話し合い、名前をつける」作業に入ります。色のリストがビッシリ埋まったグループもあれば、話し合いながらまだ調色を続けるグループも……と、この作業の合間にも、それぞれの熱中ぶりが感じられました。
ディスカッションが終わり、各グループの色が前方へ貼り出されると、まずは「みんなで色の見た目だけを鑑賞する」時間が設けられ、クラウドツールで無記名投票を実施。ここでは青みがかったグリーンの「十色(といろ)」が一番人気となりました。そこからさらに、各グループの代表者が色のネーミングとコンセプトを発表します。
・虎ノ門ビルドカラー
虎ノ門の高層ビルや夜景をイメージしたというこの色。「ビルディング(Building)」の動詞形「ビルド(Build)」を調べると、「(人や組織同士の)関係性を築く」「(~の程度を)高める」「(構造物などを)作っていく」といった意味があることがわかり、この名前にしたといいます。
・ネオ小町鼠(こまちねず)
「虎ノ門は江戸時代からの文化と最新のビジネスが融合した街」と考えたこのグループは、江戸時代後期に流行ったという少し赤みを帯びた薄いグレー色「小町鼠」に注目。小町鼠に「ガラス張りの高層ビルに映る空」のような都会的な色合いを足し、「150年後の小町鼠」を生み出しました。
・燃えるレンガ
「レンガが燃えている色」として、今回唯一の暖色系を提案したこのグループ。レンガの伝統、歴史、堅牢といったイメージと、そこに新しい世代が入ってきて、若い情熱が混ざり合う様子を表現した色だといいます。
・タイガーディープ
もともと老舗企業が多かった虎ノ門に、現在は多数のスタートアップ企業が入ってきて、多くの個性が集まる土地になったと考えたこのグループ。新橋色をベースにしながらも「“濃い”個性が集まっている街」を表現するため、真正面から薄めずにぶつかるようなイメージで色を作ったのだそう。
・十色(といろ)
「多くの色を混ぜるとグレーに近づく」というマエダさんのアドバイスを受け、「それならむしろグレーを作ろう」と考えたこのグループ。黒以外の色をすべて同じ割合で足し、薄めていくと、なぜかグレーではなくこの色が出来上がったといいます。「虎ノ門のように人がたくさん集まるとこうした偶然が起こる」ということで、「十人十色」にちなんだこの名がついたのだそう。
・和ゴールド
虎ノ門は、街をあまり知らない人にとっては単調なイメージを持たれがちな一方、街の中に入っていくと多様性があって、いろいろな個性が混ざり合い、和をなしている、と考えたこのグループ。そこで「一見すると黄色だけれども、実は多様な色が混ざり合っていて、そこはかとなく和を感じさせる」この色を作ったといいます。
各色のコンセプトを知り、改めて行われた最終投票では、僅差で「和ゴールド」を上回り、「十色」が最も多くの票を得て「虎ノ門の色」の座を獲得!
この日各自で作ったインクは参加者がそれぞれ持ち帰ることができることに加え、「十色」のインクも後日参加者にプレゼントすることが伝えられます。
オカモトヤの園田さんが「歴史的な瞬間に立ち会えてとてもうれしいので、ぜひオカモトヤ虎ノ門店でもこの『十色』を販売したり、この色のガラスペンを作ったりできたら」と挨拶すると、小野寺さんも「みんなが使えるような色になったらいいですよね」と期待を寄せました。
最後は、河内屋さんより提供されたクラフトビール「KUNISAWA BREWING」をそれぞれ手に取って乾杯!「十人十色」「多様な色の混じり合い」といった、虎ノ門という街の多様性に注目した色が人気を集めた今回、“印刷会社の手掛けるクラフトビール”という、まさに多様性を体現したかのような組み合わせも相まって、懇親会も大盛況でした。
イベントの参加者からは「NAKANIWAは空間も素敵だし、小鳥のさえずりとか水音が聞こえてくるのはすごくいい。集中できる一方、ふとした時に癒される感じです」という感想もあり、会場になったNAKANIWAは好印象だった様子。
ワークショップ自体についても「虎ノ門で働き始めてまだ半年くらいですが、ますます愛着が湧くきっかけになりそうです」「言語ではなく、色という感覚で街のイメージを会話することで、感覚的な印象をうまく融合できるんだなと驚きました」といううれしい声が寄せられました。
こうしてさまざまな色から偶然生まれた「十色」はその後、「虎ノ門の色」を踏まえ、読みはそのままに「虎色(といろ)」となりました。虎ノ門の街で虎色を見かける日が楽しみです。