中央⽇本⼟地建物グループのR&D拠点「NAKANIWA」は、森林をイメージしたユニークなワークプレイスであり、オフィスの付加価値を高める空間づくりの実験の場でもあります。
このNAKANIWAで行われる全5回のワークショップイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」の第3回目を取材してきました。
第1回目、第2回目の記事はこちら
みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所
2024年11月、NAKANIWAで全5回のワークショップイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」の第3回目が開催されました。2024年7月に開催された「みんなで考える“みらいのワークスタイル”ワークショップ」のセッションを生かしながら、これからのまちづくりのコミュニティを通じたアプローチを探っていくシリーズです。これは単なるワークショップにとどまらず、最終回で提案された内容は精査・選択した上で2025年虎ノ門エリアにてトライアルを実施することを目指しています。
第3回目のワークショップのテーマは「シナリオを考えよう」です。
漢字一文字で自己紹介&最新鋭のテクノロジーに触れたブレイキングセミナー
まずはチェックインとして、NTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの尾崎さんのリードで「漢字一文字自己紹介」が行われました。これは自身の“人となり”を表す漢字一文字を選んで自己紹介をするというもので、自分の名前の字を選ぶ人、性格や考え方にちなんだ漢字を選ぶ人、中には「弱」「蚊」など、「どうしてその字を!?」と興味を惹かれるような意外な字を選んだ人もいて、大変盛り上がっている様子でした。

次は同じくNTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの山下さんによるブレイキングセミナーです。本ワークショップのテーマに合わせ、テクノロジーを駆使した「世界の最先端コミュニティ」が紹介されました。
株式会社Gaudiyが運営する「Gaudiy Fanlink」は、企業が提供するIP(知的財産)に対する“ファン”の熱量をAIやブロックチェーンといった技術で可視化・分析し、その熱量に応じてサービスを還元するというコミュニティサービスです。例えば人気漫画を原作とするアニメ・映画作品のコミュニティで、ファン向けのイベントが開催されています。
アメリカのRadicalxChange Foundationが提供する「Plural Voting」は、特定の問題が発生した際に、その問題からの“距離”をブロックチェーン技術などで可視化し、それによって1人に与えられる決定権の大きさが変動するという投票システムです。やや複雑な投票方法にはなるものの、自分自身の意思がより反映されやすい特徴を持っています。また同社は、支援金額ではなく、支援している“人数”を重視する「Plural Funding」も提供しています。
OpenAICEOサム・アルトマンが共同設立者であることでも話題の仮想通貨プロジェクト「World Network」は、虹彩スキャンで人とロボットを識別する「ワールドID」を用いて、仮想通貨でユニバーサルなベーシックインカム制度を実現させようという試みです。

山下さんは「どの例もまず何らかの目標があり、それに対してどういったテクノロジーを活用するのか?と考えられている。みなさんがこのワークショップでどんな理想像を描き、それに対してどう取り組むか考える際の参考になれば」と参加者に呼びかけました。
「3か年シナリオ」を練るグループディスカッション
続いて、NTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの前田さんのファシリテートによるワークショップのスタートです。
本日の到達点は「“テーマ”の実現に向けてシナリオを考えよう」。参加者は、第2回で振り分けられた「コミュニティを生み出す」(A、Bチーム)、「コミュニティを大きくする」(C、Dチーム)、「コミュニティがアクションする」(E、Fチーム)という3つのゴール/6チームで引き続きディスカッションします。

またファシリテーターからは、各チームに下記のようなテーマが提示されました。
チーム |
ゴール |
第3回のテーマ |
A |
コミュニティを生み出す |
デジタルやAIをどのように活用したら、虎ノ門から「コミュニティ」がどんどん生まれていくだろうか? |
B |
|
他の施設のようなビジネス視点ではなく、居心地のよさなどのひとの視点を起点にした「コミュニティ」を生み出していくにはどうしたら良いだろうか? |
C |
コミュニティを大きくする |
自らが愛着を持つとともに、さらに多くの人から愛されることで、ひとの輪が大きく広がる「コミュニティ」をつくるためには、何をすれば良いだろうか? |
D |
空間やデジタルを使って、10人の「コミュニティ」を100人規模に成長させるためにはどうしたら良いだろうか? |
E |
コミュニティがアクションする |
「コミュニティ」がビルや施設から飛び出し、まち全体と融合しながらさまざまな「アクション」を生み出していくためには、どうしたら良いだろうか? |
F |
「コミュニティ」がクリエイティブな「アクション」を連発するためには、どのような仲間やサポートが必要だろうか? |
各チームは、2027年にこのテーマを実現するため、まず2026年の「望ましい姿」、そして2025年の「望ましい姿」を考えるというバックキャスティングの手法で、グループディスカッションを進めていきました。
チームにてまずは1人で「3か年シナリオ」を検討、続いてグループディスカッションにて考えの共有とまとめの時間が取られ、最後に各チームの代表が話し合った内容をまとめて、発表しました。

NAKANIWAのSOTONIWA(外庭)、そしてURANIWA(裏庭)も
はじめにマイクを取ったのはチームE。テーマは「『コミュニティ』がビルや施設から飛び出し、まち全体と融合しながらさまざまな『アクション』を生み出していくためには、どうしたら良いだろうか?」です。
まずEチームの結論として「2027年にNAKANIWAに対して大きなSOTONIWA(外庭)や、URANIWA(裏庭)ができている状態」が提示されました。
そもそも本ワークショップに、NAKANIWAが入るビルのテナント企業が参加していないことを挙げ「我々はNAKANIWAの中だけで話して、外に出ていない」といいます。そこで地域にオーソライズされるため、2027年へ向けてコミュニティを生み出す「コミュニティーコンテスト」活動を実施し、審査員には地元の地権者や飲食店なども迎えるというアイデアを披露しました。

「2026年にはコミュニティの在り方を、地域の方や地元企業と一緒に考える場を目指します。その一歩手前として、2025年は企業や地域と仲良くなって協力するために、メディア活動、マーケティングなどをやっていこうと思っています」という3か年シナリオが発表されました。
石川さんは「NAKANIWAがオープンな、みんなが心を許しながら対話をするスペースだとすると、URANIWAは逆にクローズドで、オープンにする前にある程度話を詰めておかないとできない案件などで活用する、そうやって機能を分けると意味が出てくると思うし、なかなかいいと思います」とアドバイスしました。
“普通の人”が抱える課題の解決策を作る場所に
チームFのテーマは「『コミュニティ』がクリエイティブな『アクション』を連発するためには、どのような仲間やサポートが必要だろうか?」です。
まず3か年のシナリオについて「2027年は施設事業や新しいビジネスが生まれている状態」とゴールを提示しました。では、2026年はというと「不満のある人がたくさん集まっている」のだといいます。
「『○○は嫌だ』という思いを抱えた人がたくさん集まっていて、それをもとに実際の新規事業を創っていくという段階を想定しています。2025年は土壌づくりや、そもそもどういう形でコミュニケーションをするか、といった要件定義をしていこうと考えています」。
チームのメンバーでできることは主に「議論の場づくり、仕組みづくり、人集め」ということがわかり「このチームなら事業企画はできる、でもその事業には“顧客”がいない。そもそもどんな問題を解決するのか、どんな消費者がいるのかという点が漏れてしまっている」ということに気づいたのだそうです。
「僕らが創る場所に呼びたいのは“普通の人”なんです。普通の人の愚痴とか不満から課題を見出して、例えばクリエイターや、官僚の方などと協力して解決策をつくっていく、そういう場所にできたら」とまとめました。

石川さんは「愚痴や不満を聞くだけじゃなくて、本当の課題は何かを見つけるコミュニティ、そこでソーシャルインパクトが生まれ、そこにクリエイティビティが必要なのかもしれないなと思いました」と感想を述べます。
また「既存のサービスでもどうにもならないことが“本当に解決すべきもの”だと思うので、ビジネスにつながることと、ソーシャルインパクトを両方諦めずにやれる仕組みをぜひ実現してください」とエールを送りました。
学生を「将来にわたって虎ノ門を愛してくれる社会人」に
チームCのテーマは「自らが愛着を持つとともに、さらに多くの人から愛されることで、ひとの輪が大きく広がる『コミュニティ』をつくるためには、何をすれば良いだろうか?」です。
まずチームの考えとして「仕事の仲間を増やすことでコミュニティを広げていきたい」ということを挙げ、中央日本土地建物が設立予定の虎ノ門イノベーションセンターを1つの集合地点とし、そこをきっかけにどんどん輪を広げていくという方向性を示しました。
3か年シナリオについては「2025年はまず取っかかりということで、知識や技術、まちづくりなどに知見のある小さいコミュニティを徐々に集めていき、2026年はその小さいコミュニティを組み合わせ、手を広げていく」といいます。
そして「虎ノ門の中ですぐにコミュニティが育つか」という課題に対してチームCが出した解決策は「学生」でした。
「私たちは仕事をしているがゆえに頭が固くなりがちなので、学生の柔軟な意見を採用したい。また若い学生を取り込むことで、将来にわたって虎ノ門を愛してくれる社会人が育っていくと考えました。
学生が虎ノ門地区に住んでくれるよう、スポンサー企業が一定条件で家賃補助を実施して、積極的にアプローチしてくれる学生を探します」という計画を発表しました。

石川さんは自身がプロデュースする雑誌の「FRaU SDGs eduこどもプレゼン・コンテスト」という取り組みで、小学生から企画を募集していることに触れ「めちゃくちゃ面白い。小学生は我々が考えることをはるかに超えた新しいアイデアを提案してくれます。一緒にやれたら面白いかもしれない」と呼びかけました。
人に価値が紐づいている、面白い人がいる、面白い話ができる場
チームDのテーマは「空間やデジタルを使って、10人の『コミュニティ』を100人規模に成長させるためにはどうしたら良いだろうか?」です。
チームDではまず「どんな100人を集めなければならないか」を定義したといいます。
「『呼んだら来てくれる、頼んだらしっかり動いてくれる』100人を集めたいという話になりました。どんなコミュニティかも定まっていない状態なので、一般的な話にせざるを得なかった中で、入りたくなるコミュニティというのは、人に価値が紐づいている、面白い人と面白い話ができる場じゃないかと。2025年はお酒を介して人とつながれる『飲める場所を作りましょう』ということになりました」。
その上で、2026年はとにかく「飲める場所」の拡大施策を実施していく、そのために「他のコミュニティを巻き込む」ことをやっていくといいます。
「地域コミュニティごと巻き込む、また注目されるイベントをやるというところで、例えば虎ノ門の地の利を活かして、まずは『本日のママは霞が関の官僚です』といったことができれば」。

チームDメンバーの中には土地を貸せます、コミュニティの巻き込みができます、WebサイトのPVを上げられますというメンバーがおり、実現できるのでは?という話に落ち着いたのだそうです。
石川さんは、どんなコミュニティかが見えないうちから大きくすることを考えるのは難しいとチームDに理解を示しながらも「ただ、こうやって人が集まって、このメンバーでしか考えられないことを話し合って、それから決まっていくというのもワークショップの醍醐味じゃないですか。そこを十分に楽しんでやっていると思ったし、この先もそうやっていければいいかなと感じました。楽しい場を作ってください」とエールを送りました。
AIが情報収集しながらコミュニティを作り続ける仕組みを
チームAのテーマは「デジタルやAIをどのように活用したら、虎ノ門から『コミュニティ』がどんどん生まれていくだろうか?」です。
チームAは「AIがビッグデータから情報を収集してコミュニティを作っていく仕組みを作りたい」と考えたといいます。そのために、3か年シナリオではまず、2025年にデータ収集の仕組みを作ることとしました。
「例えば虎ノ門にいる人のアンケートだったり、もしくは設備投資をしてカメラを大量に設置したり、そういった方法でビッグデータを作ることはできるんじゃないかと考えました。ただ集めるのではなく、集めるデータの方向性・軸が必要なのではないかという話もしました。
そして2026年はこのビッグデータの分析を始め、コミュニティの形を作っていきます。最初からAIの分析だけでコミュニティを作るのも難しいのではないかということで、一旦人間主導で盛り上げていこうという話をしました」。
そしてチームに不動産事業者、建設会社、アプリ制作会社、と幅広いビジネスを手掛けているメンバーがいることに触れ、「実現性のあるチームなので、具体的に動かせるプロジェクトになっている」と頼もしいひとことで締めくくりました。

石川さんはまず「AIが介在することで『みんなが仲良くなる』とか『みんながやる気になる』といった、PMO的・ファシリテーター的な人格を持ったAIまでいく可能性はあるんですか」と尋ねます。
チームAは「3年では難しいかもしれません」としながらも、「従来、人間が自発的に『入りたいコミュニティに入っていく』ところをAIがやってくれる、というのが1つの指標になるのではないかと思っています。自分が気づいていないところで分析されて初めて出会うこともあると思いますし、そこを任せてもいいんじゃないかと」と答えます。
これを受けて石川さんは「予定調和だけではなく、セレンディピティを演出するのがAIだと。データが有機的につながって、自分では思ってもみなかったプロジェクトに出会えるってことですね」とまとめました。
毎日主が替わる場で、幅広く流動性のあるコミュニティを
最後にマイクを取ったチームBのテーマは「他の施設のようなビジネス視点ではなく、居心地のよさなどのひとの視点を起点にした『コミュニティ』を生み出していくにはどうしたら良いだろうか?」です。
チームBでは「幅広い人が集まる、かつ人が固定されないようなスナック的な場を提供したらいいのではないか」と考えたといいます。
そこで、3か年シナリオではまず「2025年にまず一番重要となるママを雇うところから始めて、暫定的に一部のスペースをお借りして、小さいところからコミュニティを作っていく」としました。そして2026年には、「1人のママではお客さんが固定化してくるので、複数のママを用意して、かつファンも増やしていく」といいます。
「あくまで『いろいろな人が集まれる』を最終的なゴールにしたいので、さまざまなママによるネットワークを広げ、見込み客を増やします。2027年には虎ノ門イノベーションセンターに、ウェルネス的な視点も含め、サウナなど健康を意識した場も一緒に作っていきたいと考えています」。

石川さんは世界で一番面白い街を作るプロジェクト「ISHINOMAKI 2.0」の「毎日マスターが替わるバー」の取り組みを挙げ「1人で『毎日200人呼び続ける』のはなかなかできないけれど、『この1日だけ200人呼ぶ』人が365人いるのなら頑張れるかもしれない。毎日マスターが替わるということは、誰かがそうやって頑張った1日が毎日続くということで、なかなか楽しいかもしれない。まずはママやマスターをみなさんがやってみるのも面白いですよね」と提案します。

これにはチームBも「我々もこのワークショップのメンバーが『最初のお客さま』になるという話をしていたんです。みなさま、ぜひ来ていただけたら」と応じました。
まとめ
次回は、第3回までに発表し、話し合った内容を踏まえて、より具体的なアクションプランを考えていく予定です。机上で考えるだけでなく、社会実装を目指して進み続ける参加者たちに、今後も注目していきます。