NAKANIWAイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」第4回レポート

NAKANIWAイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」第4回レポート

中央⽇本⼟地建物グループのR&D拠点「NAKANIWA」は、森林をイメージしたユニークなワークプレイスであり、オフィスの付加価値を高める空間づくりの実験の場でもあります。
このNAKANIWAで行われる全5回のワークショップイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」の第4回目を取材してきました。
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みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所

2024年12月、NAKANIWAで全5回のワークショップイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」の第4回目が開催されました。本イベントは、2024年7月に開催された「みんなで考える“みらいのワークスタイル”ワークショップ」のセッションを生かしながら、これからのまちづくりのコミュニティを通じたアプローチを探っていくシリーズです。単なるワークショップにとどまらず、最終回で提案された内容は精査・選択した上で、2025年度に虎ノ門エリアにてトライアルを実施することを目指しています。
第4回目のワークショップのテーマは、プロジェクトの「タイトルと内容を考える」です。

相互インタビューでチェックイン&日本のコミュニティを知るブレイキングセミナー

まずはチェックインとして、NTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの尾崎さんのリードで「自社の強みインタビュー」が行われました。参加者同士がペアを組み、交代で「自社の強み」をインタビューし合うというもので、身振り手振りも交えた熱いインタビューが交わされました。

自社の強みインタビュー

次は同じくNTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの山下さんによるブレイキングセミナーです。今回は、「日本のローカルコミュニティ」が紹介されました。

第一の事例は、“アーバンフォレスト×NFT(非代替性トークン)※1”を掲げる東京の「Comoris」で、都市の遊閑地などに「ご近所シェアフォレスト」として小さな森を育てていくコミュニティです。雨水やコンポストを利用した土壌改善で森を復活させる活動をしていて、コミュニティ内でオンラインツールを利用して情報共有し、植栽計画などを進めているそうです。
※1:Non-fungible tokenの略。唯一無二で偽造不可能であることが証明されているデジタルデータ。

第二の事例は、秋田県五城目町の「SHARE VILLAGE 」で、古民家をシェアビレッジとして利用するコミュニティです。「年貢」と呼ばれる会費を払うことで全国各地から入村でき、村民になることで地域とのコネクションが生まれ、“里帰り”としての宿泊や、移住に繋がっているといいます。

ブレイキングセミナー

第三の事例は、“第2の自治体”を掲げる「Next Commons Lab」で、少子高齢化などで公助の限界を迎えている地域で共助の仕組みを作っていくLocal Coopサービスを運営しているコミュニティです。PFS(成果連動型民間委託契約)やSIB(ソーシャルインパクトボンド)を利用して、地域電力、買い物支援、ゴミの資源化などを事業とする法人を作り、運営しています。そのひとつ、奈良県の「Local Coop 月ヶ瀬」では、「自分ごと化会議」として村の方々が主体性を持って社会課題に取り組む仕掛け作りをしているといいます。

山下さんは「Commorisは自分自身でNFTを持つし、SHARE VILLAGE 町村やNextCommonsLabは寄り合い型の株式会社のような、出資額によらず『出資することで議決権を得られる』といった仕組みがある。今回のワークショップも単に『コミュニティに使われる』のではなく、みなさんで中央日本土地建物グループさんが用意してくれた場を最大限活用できるようなアイデアを出していきましょう」と参加者に呼びかけました。

「2025年度に実施できるプロジェクト」をグループディスカッション

続いて、NTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの前田さん・江井さんのファシリテートによるワークショップのスタートです。
本日のテーマは「プロジェクトのタイトルと内容を考える」。参加者は、第2回で振り分けられた3つのゴールに基づく6チーム体制「コミュニティを生み出す」(A、Bチーム)、「コミュニティを大きくする」(C、Dチーム)、「コミュニティがアクションする」(E、Fチーム)で引き続きディスカッションしていきます。

まずは個人ワークとして「2025年度に実施できるプロジェクト」のタイトルと内容を検討する時間。その後、各自で検討したアイデアを共有、グループディスカッションのまとめの時間が取られます。
ディスカッションの後は各チーム内で話し合った内容を代表者が発表。ソーシャルグッドプロデューサーの石川淳哉さんから、コメント・アドバイスが届けられました。

ソーシャルグッドプロデューサーの石川淳哉さん

チームC:「どんな学生を集めるか」がポイントに

各チームの発表となり、はじめにマイクを取ったのはチームCです。
前回はコミュニティを育てるにあたり「学生に虎ノ門地区に住んでもらう」というアイデアを示していました。そして今回は構想を具体化し、2025年度に実施できるプロジェクトとして「学生が来てくれるための案を考えるプロジェクト」と名付けました。

「2025年は土台設計をしていきたい。具体的には、学生が魅力を感じてくれるような制度設計のための事前リサーチ、どういう学年や専攻の方に来てもらうといいか、実施するコンテンツの内容などを考えていく。またパートナーとして、家賃補助制度を実現するために学生向けマンションなどを扱っている不動産会社と手を組んでいくことも考えています」。

チームC

これに対して、石川さんはまず「どんな人物の学生を集めるか」が定まっていないことを指摘します。虎ノ門イノベーションセンターを中心としたプロジェクトのコンセプトが「社会課題解決の社会性と事業性をマージして、両方できる人材を育成する・プロジェクトを創出する」であることを挙げ、「大人数を集めるより、どれだけ熱いヤツを集めるか、そして、そういう学生を本気で採りにくる企業とマッチングする、日本で唯一の場になるといい」と続けます。これにはチームCも「企業の人事との連携も考えられるという話はチームでも出ていた」と応じました。

チームD:虎ノ門を耕し、悩みの種をみんなで育て解決する

次に発表したのはチームDです。コミュニティを大きくするという目的のもと、前回は「呼んだら来てくれる、頼んだらしっかり動いてくれる100人」を集めるために、お酒を介して人と繋がり飲める「場所を作る」というアイデアを打ち出していました。今回は、「リアルな場がないとコミュニティの求心力も強くなっていかない」と考え、「耕せ虎ノ門!プロジェクト」を提案しました。

「まず自分達でDIYをして『人と繋がれる場所』を作り、コミュニティの力を強くする。室内の床の一部が土になっていたりして、みんなでプチ農業ができるような場所も用意したいです。そこで『参加者の“悩みの種”と称した植物を植えてみると、世話をするために、こまめに来てくれるんじゃないか』という面白いアイデアも出ました」。

そして、「耕せ」の概念は農業などのハード面だけではありません。ソフト面での取り組みとして、「虎ノ門で本当に根を張ってコミュニティを作っていくのであれば、まず虎ノ門のことを知り、地域の人も巻き込んだ方がいい」という観点から、地域の人のインタビュー、エリア散策、ランニング企画なども示されました。

チームD

石川さんは「非常にキャッチーなコピーが出てきましたね」とまずひとこと。英語の「耕す(Cultivate)」は「文化(Culture)」と語源を同じくすることから、「『カルチャーの醸成』という意味も含ませることができる。テーマやトーンを『耕す』で統一するのはアリかもしれないですね。虎ノ門イノベーションセンターの屋上をみんなが集う場所にできたら、植物を植えるエリアも作れるかもしれない」と続けました。

チームA:虎ノ門に集まる人に、愛着の持てるナラティブな名前を

チームAは前回「AIが情報を収集してコミュニティを作っていく、それを繰り返す仕組み」を提案していました。そこで、2025年には「とらんちゅ未来共創プロジェクト」と銘打ち、虎ノ門に集まる人を“とらんちゅ”と名付け、データベース作成を行うプロジェクトを提案しました。

「虎ノ門エリアで今後取り扱っていきたいテーマを、経済性や社会性などの基準で選定した上で、アンケートを取っていきたい。ただ回答率を上げるのが難しい面もあるので、何かしらのインセンティブを付与することも考えました。アンケート用のアプリをインストールすると、まちの共有スペースが使えるようになる、まちで使えるクーポンを発行するといったところが一番大きいのかなと。
また、“とらんちゅ”のロゴを作りたいと思っています。まちにQRコードともに貼って浸透させ、『これなんだ?』という関心からダウンロードとアンケートに回答する状況を作ると面白いかなと。こうしたわかりやすい言葉とデザインを使って普及をさせていきたいです」。

チームA

石川さんが「“とらんちゅ”も素敵だけど、テーマであるデジタルとAIの活用の香りがタイトルに入っていてもいいかな」と指摘すると、チームAも最初は「とらんちゅ みんなのデータを集めよう」的な名前だったものの、「みんなのデータを集める」とタイトルに出すのは抵抗を感じるユーザーもいるのでは?……と、議論が進んだ結果がこのタイトルだったとのこと。

石川さんはタイトル再考のヒントとして、「『忠臣蔵』で有名な赤穂の藩士は、虎ノ門近辺を担当する有名な江戸町火消しの『ゑ組』に扮して吉良邸に近づいたと言います。大人数で練り歩いても、梯子を持っていても不思議じゃないから」というエピソードを挙げます。「例えばこの『ゑ組』のような、歴史的背景を持つナラティブを活用したコピーワークも面白い」とアドバイスしました。

チームB:虎ノ門のスナックからセレンディピティを

続くチームBは、前回「幅広い人が集まる、かつ人が固定されないようなスナック的なイメージを持った場を提供する」と提案していました。このアイデアを生かし、2025年度は「虎ノ門スナックママ発掘プロジェクト」を推進していくといいます。

「虎ノ門イノベーションセンターに入っている企業の行きつけになるような空間を作るイメージで考えています。そこで2025年度に、キーパーソンとなる“ママ”と“場所の作り方”のトライアルをしていきます。
ママはいきなり求人募集しても難しいと思うので、まず参画している企業の社員からチーママを募り、その中で採用要件を定義していきます。
私の会社はオンラインコミュニティのツールを扱っているので、スナックのイベントやママに関する事前情報を展開できるように、そして家電メーカー勤務のメンバーは、自社製品のマッサージ機を提供したり、照明計画などを担当したりして盛り上げる予定です」。

さらに、スナック以降の展開としてはサウナなどのウェルネス施設も検討したいとまとめたチームB。意欲的な様子が伝わってきました。

チームB

石川さんはまず「もともとのミッションが『居心地の良さと人の視点を起点にしたコミュニティが生み出されているまち』であって、その裏側に『社会課題解決とビジネスを展開できるコミュニティ』が自然に生まれる場になってほしい。その関係性が見えてくるといいなと思います」とアドバイス。「ここにしかないセレンディピティが集まったり、気づきがあったりする場所ができるといいな」と期待を寄せました。

チームE:虎ノ門のまちの人たちが混ざり合う「SHIRUNIWA」

チームEは、前回「2027年にNAKANIWAに対して大きなSOTONIWA(外庭)や、URANIWA(裏庭)ができている状態」を提案し、既にキャッチーなネーミングとコンセプトを見出していました。そして今回は、これらの総称ともなる「SHIRUNIWA立ち上げプロジェクト」を発表しました。

「2027年度にSOTONIWA、URANIWAが立ち上がる状態を作ると考えたとき、2026年度には虎ノ門のコミュニティの在り方を考えるだろうと。まずはコミュニティを知ってもらう活動場所として2025年度に『SHIRUNIWA(知るには、知る庭)』を作っていく予定です。
コミュニティを考えるとなると、まちのいろいろな人たちが混ざり合うことが大事。虎ノ門でも企業の方が朝、清掃活動をしているけれども、それも企業ごとに固まったままなので、違う企業の人たちがミックスされる仕掛けがあるといいという話になりました。空き地にストリートバーを開いたり、バドミントンセットやバレーボールを置いたり、人が集まる空間を作って、そこから『コミュニティの在り方を考えるコミュニティ』に繋げていけるといいなと」。

チームE

石川さんはまず、「段階的、成長的に名前が変わっていくのはすごく良い」とネーミングを評価します。また「『知る』ってとても重要」としたうえで、「例えば文字を知ることで、後世に情報を伝え残すことができる。そういうことが非常に大切」と、今の取り組みが未来へ繋がることを示唆しました。

江井さんは「歳を取って良かったと思うのは、恥ずかしさが減って、地方に行っても街歩き番組のような感じで自然に人に話しかけちゃうこと。歳に関係なく、誰でも自然に会話をして、先ほどの『赤穂藩士とゑ組』のような地域逸話を知れたり、話しかけた相手を知れたりするまちがあったらすごく素敵だと思いました」と、具体的な場やコミュニティのイメージが湧いている様子でした。

NTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの江井さん

チームF:“不満の解決”を目指して官・民・市民がコミュニティ化

最後にマイクを取ったのはチームFです。前回は「コミュニティに呼びたいのは不満を持っている“普通の人”」と訴え、「愚痴や不満から課題を見出し、官民協力して解決策を作っていく場所」を提案。2025年度はその場所作りへ向けて「不満×解決 マッチング・プロジェクト」を進めるといいます。

「課題を感じていたり、困りごとがあったりする市民の方と、事業開発、新規事業に取り組む民間企業、そして虎ノ門・霞が関の官僚の方々を結びつける。この三者連携により、困っている市民の方を助けられるアクションやコミュニティに繋がるんじゃないかと考えています」。

具体的には、テーマに沿った「座談会」を企画し、集まったメンバーで即時解決できるものに関しては直接対応する。解決しないものに関してはディスカッションを重ねていく。参加者にはテーマに関連した商品サンプルを配布するなど、民間企業にとっても広告の場というインセンティブを付与するというものです。

「ディスカッションを重ねていくことで、(ソリューションとしての)事業が出来上がっていく、そして官僚にも意見が届くので、ゆくゆくは国の政策とかにも反映される、そういう座談会ができればいいのかなと」。

チームF

石川さんは「まずテーマが素敵よね。クリエイティブなアクションを連発するコミュニティが生まれている街っていうのは何かちょっとわくわくする」と絶賛。その一方で「“業界の人を集めて座談会”ってちょっとダサい、いいテーマが“座談会”でなんか普通に戻っちゃう」と苦言を呈します。そして、日本初のインパクトIPOを実現した株式会社雨風太陽がオーガナイズする「車座交流会」を紹介しました。

「『車座』となると、ちょっと酒も入りながら課題を解決するような、そして丁々発止な感じもするじゃないですか。『座談会』はパネラーとお客さんが分かれている感じがしますよね。グッとグリップできるような名前を持ってきて、キャッチーな説明になっていくとプレゼンがもっと良くなるはず」と檄を飛ばします。

そして江井さんは「(解決できる)優れたスキルがある、力がある人と繋げるのもいいけれど、(解決したい)熱意とか本気を持っている人たちを集めることができて、この場でそういう人たちが繋がると、とても説得力が高まるし、霞が関の人も来るんじゃないかと思いながら聞いていました」と、集める人の“質”についてアドバイスしました。

まとめ

次回はいよいよ第5回、みなさんによる最終提案が行われる予定です。机上で考えるだけでなく、社会実装を目指して進み続ける参加者たちに、今後も注目していきます。

NAKANIWA

ライター:NAKANIWA

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