NAKANIWAイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」第5回(最終回)レポート

NAKANIWAイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」第5回(最終回)レポート

中央⽇本⼟地建物グループのR&D拠点「NAKANIWA」は、森林をイメージしたユニークなワークプレイスであり、オフィスの付加価値を高める空間づくりの実験の場でもあります。
このNAKANIWAで行われる全5回のワークショップイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」の最終回を取材してきました。
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「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」

2025年1月、NAKANIWAで全5回のワークショップイベント「みんなで考える“みらいのコミュニティ” デザイン研究所」の最終回が開催されました。本イベントは、2024年7月に開催された「みんなで考える“みらいのワークスタイル”ワークショップ」のセッションを受けて、これからのまちづくりのコミュニティを通じたアプローチを探っていくシリーズです。単なるワークショップにとどまらず、この最終回で提案された内容は精査した上で、2025年度に虎ノ門エリアにてトライアルを実施することを目指しています。

最終回では、各チームからプロジェクトの最終提案が行われました。これまで本ワークショップで講評を担当したソーシャルグッドプロデューサーの石川淳哉さんに加えてもう1人、Archetype Venturesの北原宏和さんも審査員として参加しました。北原さんは、中央日本土地建物グループが運営するコワーキングスペース「SENQ」の立ち上げにも参画。ベンチャーキャピタルの視点で、各チームの最終提案にアドバイスしました。

Archetype Venturesの北原宏和さん

チームA:新しい出会い〔AI〕虎ノ門プロジェクト

チームAの担当するテーマは「コミュニティを生み出す」こと。前回は「とらんちゅ未来共創プロジェクト」と銘打ち、虎ノ門に集まる人を“とらんちゅ”と名付けて、データベース化するプロジェクトを提案。最終提案ではプロジェクト名を改め、データベース作成の具体的な施策を示しました。

コミュニティを生み出すにあたり、コミュニティ参加者の「虎ノ門との関わり方」を知ることが重要だと考えたチームA。まずは無料飲食イベント、クーポンなどのインセンティブを用意し、虎ノ門で働いたり、学んだり、住んでいたりする“虎ノ門の人々”にアンケートを実施。次にオンライン上でデータベース作成に関わるプロジェクト参加者を集めます。ここで収集したデータをもとに、AIを活用してコミュニティを盛り上げるコンテンツ作成、その他ユーザー同士や、ユーザーとコンテンツのマッチングなどを行う計画です。

チームAは、このワークショップを通じて「2025年~2027年の3ヶ年計画」を練ってきたことを踏まえ「2027年((仮称)虎ノ門イノベーションセンターが開業予定の年)に盛り上がるコミュニティを作っていく上で、AIと人との組み合わせによって『虎ノ門に関わる人々同士のマッチングスキーム』のベースができるんじゃないかと考えています」とまとめました。

チームA

石川さんはAIを活用したマッチングについて「例えば『食への関心が高い人たち』ではなく『食×歴史』『食×ビジネス』のように違う領域がコラボしたときに面白くなるテーマを見出し、新しいアイデアが生み出せるといい」とアドバイス。

北原さんはアンケート調査について「回答を収集してからデータを見て考えるのではなく、事前になんらかの仮説を立て、それを裏付けるために実施する形でなければ失敗しやすい」と自身の経験から助言。「虎ノ門で働いたり、学んだり、住んでいたりする人々が抱える課題を解決できるか」といった仮説をアンケート調査で深掘りできると面白くなるのでは、とコメントしました。

チームC:みらいの虎ノ門LOVER育成!MONTORA計画

次にマイクを取ったのはチームCです。担当するテーマは「コミュニティを大きくする」こと。
前回はコミュニティを大きくするにあたり「学生に虎ノ門地区に住んでもらおう」と、「学生が来てくれるための案を考えるプロジェクト」を提案。最終提案ではさらにキャッチ―なプロジェクト名を冠し、次世代へ目を向けたユニークな施策も示しました。

若い世代に虎ノ門への愛着を持ってもらい、大人が考えられないような斬新なアイデアを生んでもらうために、チームCが打ち立てたのは「小学生を未来の虎ノ門LOVERに育成していく」計画です。まず虎ノ門の寺子屋こと「虎子屋」を創設し、虎ノ門の将来像を子どもの目線で考えてもらい、小学生から発案された地域課題の解決策を大人が実現する、というエコシステムを作っていく。「虎子屋」の運営や小学生のメンター役は、この活動で得られる経験や、虎ノ門に廉価で住めることをインセンティブとして、大学生に住み込みで担ってもらうといいます。

チームCは「『虎子屋』を学童保育的な施設からスタートさせつつ、公立小学校の『総合的学習』の取り組みへステップアップさせたり、夏休みを利用して『虎小屋』に全国各地から小学生を集めたり……将来的には『虎ノ門留学』のような形で広めていけたらと思っています」とまとめました。

チームC

石川さんは小学生、大学生、アイデアを実現する企業が交わるところに面白さを感じたそうで「この取り組みを、違う角度から虎ノ門を考えられる機会にすると面白いかなと。例えば小学生のお父さんやお母さんが、教室の外から見ているだけではなく自分も虎小屋に関わっていくようにすると、普段接点のない大人同士が知り合ったり、子どもに自分の仕事を知ってもらう機会につながったりするのでは」とアシストしました。

チームD:耕せ虎ノ門!“新しいアイデアのタネ”が芽吹くコミュニティ・バー

次に発表したのはチームDです。担当テーマはチームCと同じ「コミュニティを大きくする」こと。
前回は「呼んだら来てくれる、頼んだらしっかり動いてくれる100人」を集め、コミュニティを大きくするためにリアルな場を作る「耕せ虎ノ門!プロジェクト」を提案。最終提案ではサブタイトルにもある「コミュニティ・バー」が加えられました。

官庁街に隣接する虎ノ門で、公務員とビジネスパーソンがフラットに交流できる空間を作りたいと考えたチームD。ただお酒を飲むだけでコミュニティを広げるのは難しいだろうと「バーのように気軽に入れる場に、人やコミュニティとマッチングしてくれる方を立てて運営する」こと、「来店できないときもオンラインでつながれるコミュニティを作る」ことを提案します。さらに、店内にデジタルサイネージを置き、ビジネスの悩みのタネを植えることができる「デジタル農園」を提案。店内やオンラインコミュニティから、悩みを解決するためのアドバイスや、解決のために活動しているコミュニティの紹介が行われるといいます。

チームDは「このコミュニティや虎ノ門が、官民連携のハブとなる『話題の場所』として認知されていくといいなと。官民連携でどんどん新しいアイデアが生まれ、ここから日本が変わるような事業が巣立つようになってほしい。その結果『虎ノ門で働きたい』と思う人が増えてくれれば」とまとめました。

チームD

石川さんは過去1回~4回までのワークショップでチームBが提案してきた、スナックを営む提案との類似点を取り上げながらも前向きな様子。「バーとスナックは業態も違うし、併存してもいいのかなと。『バーはいつでも同じ相手に相談できて、スナックのママは日替わり』のように違いを出してもいいですよね」と棲み分けを提案しました。チームDも「バーの営業時間は夜なので、昼間はチームCの虎小屋として活用してもらう“二毛作”にすると、より多くの人に利用してもらえる」と、さらなるアイデアを繰り出しました。

総務省OBの北原さんも「官僚は多忙過ぎてなかなか遠くまで足を運べないので、『近くにバーやスナックのようにオフモードでリラックスできる環境があって、何かあったらすぐ職場に戻れる』というのは非常にいいコンセプト。まず僕が参加したいですね」と興味津々。他チームから「朝活のような視点もありそう」といったコメントも届いていました。

チームE:SHIRUNIWA立ち上げプロジェクト

チームEの担当するテーマは「コミュニティがアクションする」こと。前回は「2027年にNAKANIWAに対して大きなSOTONIWA(外庭)や、URANIWA(裏庭)ができている状態」を目指す「SHIRUNIWA(知る庭)立ち上げプロジェクト」を発表。今回は、これをさらにブラッシュアップした最終提案となりました。

3ヶ年計画として、2025年はSHIRUNIWAを形成する「○○NIWA」(マルニワ)というコミュニティの認知度を高め、2026年は虎ノ門の地域住民や地域企業と一緒にコミュニティのあり方を考え、2027年には虎ノ門エリアにNAKANIWAと異なった機能を持つさまざまな「○○NIWA」ができ、多様な人が集まる計画を立てたチームE。

「コミュニティ形成への第一歩として、まず虎ノ門エリアで目に見える活動を展開します。例えば虎ノ門の中でスポーツやヨガ、ラジオ体操をやったり、ゲームを置いてみたり、虎ノ門イノベーションセンターの工事の仮囲いに広告を出したりして、まずは『何かが始まっている』という空気感を周囲にアピールしていきたい。コミュニティに参加していただくための心理的ハードルを下げることを目標としています。
またチームEには不動産やエリアマネジメントに関わるメンバーがいるので『○○NIWA』の活動の場を提供してもらえるし、イベントを企画しているメンバーもいるので、お祭りや飲み会、ビジネスコンテストなどの企画を立てられる。2027年度には個性豊かなコミュニティが虎ノ門のいろいろなところで生まれると考えています」とまとめました。

チームE

石川さんは前回のワークショップ以来「SHIRUNIWA」のコンセプトに大きな期待を寄せており、「何をやる場所、コミュニティなのかもう少し具体的な話が聞ければ、もっとわかりやすかった」としました。

北原さんからは「NAKANIWAではそもそも何をしようとしているのか、できないことは何か、他の場ならもっとうまくできることは何かを突き詰めて考えて、そこから拡張したり、かけ合わせたりすることで、アイデアを発展させるといいかも」というアドバイスが送られました。

チームF:くらしカイゼンラボ

チームFの担当するテーマは「コミュニティがアクションする」こと。前回は「普通の人の愚痴や不満から課題を見出し、官民協力して解決策を作っていく場所」を作るための「不満×解決 マッチング・プロジェクト」を提案していました。最終提案ではプロジェクト名をガラッと変え、“解決”についてさらに具体的に掘り下げました。

テーマとして求められた「クリエイティブなアクション」を「問題解決」と定義したチームF。虎ノ門を、ビジネス街から「生活者と事業者が混ざり合って暮らしがどんどん良くなる街」にしたいといいます。またビジネス側の課題として「顧客不在のまま、アセットありきの新規事業を企画しがち」なことを挙げ、新規事業を作りたい事業者と、生活に不満を抱えている生活者(潜在顧客)の接点となるコミュニティを作るとしました。

「生活者を集めるのが鍵なので、プロジェクト名からもビジネス要素をなくし、『くらし』を打ち出しました。例えば睡眠や子育てといった特定のテーマで『お悩みぶっちゃけ会議』をする。そこでは同じ困りごとを抱えている参加者同士でアドバイスし合ってもいいですし、事業者が『うちに解決できそうな商品があるので試供品・クーポンをどうぞ』というケースもあるイメージです。既存のソリューションで解決できない困りごとに関しては『解決したいのでもっとお話を聞かせてください』と、生活者を事業開発へ巻き込んで、将来的にはアンバサダーになってもらおうと思います」とまとめました。

チームF

北原さんはまず「気合いが入っていていいなと思いました」と絶賛。その一方で、東京での暮らしの不安においてはソリューションがそれなりに出揃っているのではないかと課題を投げかけます。「既存のやり方や、一企業の力だけでは解決できない困りごとに対して、複数の企業や生活者がインタラクティブにアイデアやリソースを出し合える状況だったら、もっと面白いソリューションを生み出せるのでは」とアドバイス。
チームFも「確かに一企業でやっていくのではあまり意味がないと思う。『競合だから』といった縛りを解いて、みんなで解決を目指すコンセプトにしたい」と応じました。

チームB:虎ノ門スナックママ発掘プロジェクト

最後を飾ったチームBは、発表担当者が来場できないということでオンラインでの発表に。担当するテーマは「コミュニティを生み出す」こと。前回発表した「幅広い人が集まる、かつ人が固定されないようなスナック的なイメージを持った場を提供する」ための「虎ノ門スナックママ発掘プロジェクト」、その最終形が発表されました。

2025年にオフィスビルの遊休スペースや、終業後のオフィスなどを活用して、1日店長を派遣する時限的なスナックを開業。さらにLINE上でNFTを発行するなどデジタルツールを使って、活動自体やコミュニティをストックしていくといいます。

「2027年に店舗の新規開業を迎える際には、すでに2年間の時限スナック活動でストックしたコミュニティを抱えている。これが最大の強みです。新たな拠点となる店舗が、それまでの取り組みの延長線にもなる。この2年を“準備期間”としてしっかり使うのが、この取り組みの大きな特徴です」とまとめました。

石川さんはまず「もう皆さん『早くスナックができないかな~』と思ってますよね」とひとこと。チームBのスナックを「私がママをやるから集まって」という「プッシュ型」とすると、チームDのバーは「いつでも誰かいて、フラッと行って出会う人が面白い」という「マッチング型」とし、「その両方があると素敵な場所になるんだろうなという期待感がさらに高まりました」と締めくくりました。

ソーシャルグッドプロデューサーの石川淳哉さん

北原さんは、官僚によっては外で身分を明かしたがらないこともあるので、スナックとバーのコミュニティとしての切り分けや、個人情報の扱いなど「仕組みの設計」がキモになるとアドバイス。「たまに2つのコミュニティが混じったり、重なり合ったりすることもあると面白い」と期待をのぞかせました。

提案だけで終わらせない。コミュニティづくりはまだこれから

すべてのチームの発表を終え、中央日本土地建物の松井さんからは「6つのチームから出てきた視点やアイデアが組み合わせられていくともっと面白くなりそうだと感じています。簡易的なトライアルを実施しながら、これからも皆様と虎ノ門におけるみらいのコミュニティの在り方を継続的に探っていきたい。ご参加いただいた皆さんはこの場だけでなく、年末年始なども自主的に集まってディスカッションを重ねていた、という話も聞いています。本当に長い間お付き合いいただきありがとうございました。4月以降もぜひ一緒に盛り上げていただけると嬉しいです」と感謝の言葉が伝えられました。

中央日本土地建物の松井さん

またNTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの江井さんは「虎ノ門でコミュニティについて考えることが難しいのは、官公庁やオフィスビルが立ち並ぶ虎ノ門が、他のエリアほど個人×個人の延長線上にあるコミュニティを重視してこなかったから。つまりそういったコミュニティに関する経験やノウハウの蓄積がない、真っさらなところから考えなければならなかったからではないかなと思いました」とワークショップを振り返りました。

また、バーとスナックのようにいろいろな人のための選択肢があり、夜だけでなく朝活もあり、子どもも大人もいて、霞が関の官僚も立ち寄る……という提案を聞く中で、江井さんは「ヨーロッパの企業が古い教会を買い取って開いたコミュニティセンターを思い出した」といいます。
コンサートやフードマーケット、ワークショップ、ボードゲームナイトと毎日色とりどりのイベントで埋め尽くされたセンターのスケジュール。この日の最終提案にも、虎ノ門のまちのいろいろな場所が、こんな風に色とりどりになる可能性を感じたそう。

NTTデータ経営研究所 地域未来デザインユニットの江井さん

「大事なのは、皆さんが提案したことをこの場だけで終わらせないこと。私たちもエンゲージメントしてちゃんと関わっていきますので、ぜひ一緒に育てていきましょう。これからもよろしくお願いします」とまとめました。

まとめ

参加者たちはこれからも一緒に、みらいのコミュニティデザイン研究所で作り上げたアイデアの社会実装を目指して進み続けます。その様子も「NAKANIWA」の公式サイト内でお伝えしていきますので、どうぞお楽しみに!

NAKANIWA

ライター:NAKANIWA

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