「Community Dining Project @虎ノ門」のイベントが、「NAKANIWA」の近くにある西新橋のSustainable Food Museumで行われました。コミュニティダイニングを通じて、人や土地とのつながり方、食を通じてできること、食を守るために取り組むべきことなどを考えたイベントの様子を取材してきました。
「Community Dining Project @虎ノ門」と「(仮称)虎ノ門イノベーションセンター」
「Community Dining Project @虎ノ門」は、“地域のつながり”を強化して災害時のウェルビーイングな暮らしを目指すプロジェクトです。虎ノ門一丁目での再開発事業「TORANOGATE(トラノゲート)」内で開設が予定されている「(仮称)虎ノ門イノベーションセンター」の取り組みの一環となっています。
(仮称)虎ノ門イノベーションセンターは、社会的インパクトにつながる取り組みの創出・活性化に向けて提供される、官民の交流・連携による「共想・共創・共奏」の場。その取り組みのひとつである「Farm to Future Platform」は、「日本の食」を次世代につなぐための持続可能なプロジェクトを生み出し、伝え、広げることをミッションとしています。
この日のイベントでは、「人・土地・食をつなぐ、コミュニティダイニング」をテーマとしたトークセッションと、各地から集められた名物のテイスティング&交流会が行われました。
トークセッション「人・土地・食をつなぐ、コミュニティダイニング」
トークセッションのモデレーターを務めたのは、コミュニティダイニング全国会議の代表にして農林水産省のOB、味の素株式会社の黒岩 卓さんです。まず黒岩さんによるインプットとして「なぜコミュニティダイニングへの取り組みを始めたのか」が語られました。

2018年、当時農林水産省に所属していた黒岩さんは「子ども食堂」の広がりを目にする中で「おとな食堂」の必要性を感じたといいます。ここで「家庭の中で食を完結させず、もっといろいろな人が集まって食事をしたらいいのでは」という構想が生まれました。
その後「令和6年能登半島地震」の復興支援に関わる中で、被災者支援が与え続ける一方通行の取り組みになっていることに違和感を覚え、「ご飯をよそう、片づける、掃除をする。一人一人にできることがあるのに支援側の気遣いがそれを止めてしまう。それが被災者の自立への意志を削いでしまう」ことに気づいたのだといいます。
その後黒岩さんは、石川県穴水町で飲食店関係の被災者を集めて、被災者が食事を作り提供する取り組みを学び、「被災された飲食店関係者も収入が得られる、なりわいが生まれることがすごく大事だと改めて感じさせてもらった」といいます。
味の素ファンデーションでは今も、自治体と連携し被災者の皆さんと一緒に共同での調理・共食会を教室を開き続けているのだそう。これまでの事例から「料理なんかしたことのないおじいちゃんも、無理やり引っ張り込んで一緒に作る。そうするとみんなだんだん楽しくなって、最後には『君たち(味の素ファンデーション)が来なくても自分たちでできる』となる。それが目指すところなんです」と被災者が自立していくことの重要性を語ります。支援者の応援はありがたいけれども、もらい続けることは心の疲れにもつながりかねない。だからできることは自分でやる。これが、コミュニティダイニング活動の根底にあるというわけです。
また、デンマークの事例から、世界ではすでにコミュニティダイニング活動が広まっていることも紹介されました。
日本式コミュニティダイニングのモデルとしては、祭りの前の日に集まって宴席を設け、親交を深める能登地方独自の文化「ヨバレ」が挙げられました。さらに、浄土真宗の慣習で、お寺で説法を聴いた後みんなで料理を作り食事をする「報恩講(ほうおんこう)」が、コロナ禍での中断後「受け継がれてきたはずの料理の作り方がわからなくなった」ことで途絶えかけている例を紹介し、集まって調理から取り組むことの大切さも訴えかけました。

最後に、コミュニティダイニング全国会議として「普段はみんなで集まれるコミュニティが生まれ、災害時はすぐに大量の温かい食事を提供できるように、日本の食の知恵も大事にしながらこれからも考えていきたい」とインプットを締めくくりました。
続いて、オンライン参加によるゲストが登場します。一般社団法人ソーシャル・キャピタル共創機構 代表理事で、石川県七尾市の地域おこし協力隊としても活動している酒井 可奈子さんです。前職である前職である東京の食品企業の新規事業開発で取り組んでいたコミュニティダイニング事業について、また現在能登で取り組んでいる活動について紹介されました。

食品企業の消費者相談に関わる中で、家族の台所の様子が変わっていることを実感し、黒岩さんのいう「おとな食堂」に近い形のコミュニティ食堂を経営していたという酒井さん。コロナ禍のソーシャルディスタンスで食堂を続けることが難しくなり、より自然資本が豊かな町の中での地域おこしに転じたといいます。
黒岩さんと出会って、「コミュニティをつなぎ直す」という考え方に共感したという酒井さん。食と自然資源との関わりが一体化している能登の循環サイクルに、地震をきっかけに関心を持った都市部の人々が入ってつながりを再構築していく姿を実感しているそう。そして参加者たちには「『復興したら』ではなく、ぜひ今すぐ能登の家庭料理を楽しみに来ていただきたい」とメッセージを送りました。
「自分ならこんなコミュニティダイニングに」を語るグループディスカッション
ここで、参加者たちは複数のグループに分かれ、それぞれが「自分ならこんなコミュニティダイニングにする」と考えたアイデアを持ち寄るディスカッションが行われました。
「若い子って料理します?」「どこまでが“料理”だろう?レンジでチンも料理?自分で調味料を組み合わせないと料理ではない?」という世代を超えた話し合いや、「美味しいものを食べに行きたい先はあるけれど、そこまで旅するお金や体力がない」といった正直な声、第一次産業が盛んな地域に見られる「お裾分け文化」について語り合う様子など、さまざまな話題が飛び交っていました。

ディスカッション結果の発表では、まず建築関係の参加者から「高齢の少人数世帯が増えている中で、コミュニティダイニングを街づくりの仕掛けとして広げていけないか」という意見が披露されました。今はあいさつを交わすだけのご近所さんとも、昔であれば時々居酒屋で一杯傾けるくらいのことはあった、そういう形でコミュニティダイニングを街づくりに活かせないかというアイデアです。
留学生の指導に携わっているという参加者からは「食材の多様性」に関するアイデアが出てきました。例えば昔の文献を見ると、さまざまな海藻を食事に使っていたようなのに、今やスーパーで並ぶ海藻の種類はごく限られています。そこで「コミュニティダイニングで食の多様性、失われつつある食文化を掘り起こすような活動があれば、みんな面白がって参加につながるし、それを通して経済的な持続性が確保できるかもしれない」とのこと。
キッチンを備えたコワーキングスペースを営む参加者は「グループでいいアイデアがたくさん出た」ということで複数のアイデアを紹介。ダイニングというと食べる人のイメージですが、作り手になりたい人も結構いるのではないかということで、「作り手をフィーチャーしたダイニング」「早朝にやってきて、そこから仕事や学校へ向かう『朝ダイニング』」「都心部から生産地へ行き、生産現場の見学や収穫体験などを観光化する」「『今日はみかんの可能性を追求する』とテーマを絞り込む『ワンテーマダイニング』」と、ユニークなアイデアが多数飛び出しました。
キムチの製造販売を手掛ける参加者の発表は「キムチは赤いものが主流ですが、実は日本がなければキムチは赤くならなかったという歴史がありまして……」という興味深い話題で始まりました。「食を通してその国の食文化や歴史を知る機会ができるととても盛り上がる。自分たちは、食を通してコミュニケーションを深めるコミュニティができるのではないか」というアイデアです。「韓国料理だけじゃなくて、例えばデンマーク料理ってあまり身近じゃないので、そういう機会があったらぜひ行きたいなと」。
最後に、農林水産省で外食食文化の食文化専門官を務める鬼海さんへマイクが渡りました。
鬼海さんはまず、インバウンド観光客が増える中で、自然環境や観光地巡りだけでなく「食事を楽しむ」ことを旅の目的としているケースが増えていること。それも和食に限らず、ラーメンのように日本由来ではない料理も楽しまれていることに触れます。
日本人の多い飲食店にも海外からの旅行客が混じり、一緒に食事や雰囲気を味わっていて、「食が人をつなげる」様子を実感しているといいます。そこから、この日話題になった「フラットな関係で大人が集まれるコミュニティダイニング」や「地域の食材などさまざまなテーマをもったコミュニティダイニング」にも可能性を感じていると語りました。

これに黒岩さんも「我々の野望としては、このイベント後半のテイスティングに食品を提供していただいた(全国各地の自治体)9か所へ、順番に訪問してコミュニティダイニングを実施し、美味しいものを食べたい」と応じ、トークセッションは和やかに締めくくられました。
乾杯!そして、食の未来について考えさせられたテイスティング&交流会
トークセッションの後はお待ちかね、全国各地の名産をテイスティングしながらの交流会です。乾杯の発声とともにキッチンに登場したのは“ウエカツさん”の愛称でお馴染み、 元漁師、元水産庁職員にして、株式会社ウエカツ水産 代表の上田 勝彦さん。この日は北海道・羅臼産のブリ1本を捌いてもらい、みんなで味わうというスペシャルなイベントに、場内は沸きあがります。
ヘッドセットマイクを着け、手際よくブリを捌きながらさまざまなお話を聞かせてくれるウエカツさん。身近な鮮魚が手に入りにくい鎌倉市・今泉台へ、小田原市や鹿児島・阿久根市で獲れた魚を届ける店「サカナヤマルカマ」開店のエピソードでは、食べ方のレクチャーと下処理のサービスをすることで、漁業者に捨てられがちな未利用魚を積極的に売っていることなどが語られました。そして話題は、この30~40年で漁業事情が大きく変わったことにも及びます。

実は、今日提供される「羅臼産のブリ」はここ20年の気候変動によるもので、もともとブリは北海道まで上がらない魚だったのだそう。ブリに限らず魚は徐々に北へ移動し、それと同時に獲れる種類も減っているといいます。豊かな自然をもって文化遺産に登録される場所が数ある一方で、「自然界の変化のスピードがあまりにも速くて、果たして遺産を維持できるか、それこそ人間の力を超えてしまった感もあるわけです」とウエカツさんは嘆きます。文化遺産を登録するだけでなく、維持するところまで面倒を見てほしい、そういう国であってもらいたい……という願いに、参加者はみな一心に聞き入っていました。
魚も、その他の生物においても多様性が脅かされる昨今、私たちにも「自分たちの都合でほしい魚だけを食べてきたことを反省して、少々高価になっても買って食べてほしいし、食べたことがない魚にはぜひチャレンジしてほしい、それが生態系の維持につながる」というウエカツさん。「そのために我々魚屋がこうして情報発信をしている」という言葉の通り、この日はブリの新しい食べ方を教えてくださいました。
北海道まで上がったブリは内地のブリより脂が乗っているものの「魚の味は決して脂だけではない」のだそう。ブリの身を醤油で洗って臭みをとり、水にさらさずスライスしただけの玉ねぎと酢で和えると……サッパリと、それでいて味わい深い一品になりました。

この日は他にも、兵庫の但馬牛ローストビーフ(購入はこちら)、石川・能登の巻鰤(購入はこちら)や甘酒(購入はこちら)、滋賀・琵琶湖のびわます・鮒ずし・日野菜漬け(購入はこちら)、岐阜・長良川の鮎の白子のうるか・焼きほぐし(購入はこちら)、三重・鳥羽志摩のアイゴのつみれ(購入はこちら)が入った塩麹おでん・きんこいも、徳島の有機野菜、和歌山・みなべ町と田辺市の南高梅、宮城・大崎の「ささ結」(購入はこちら)「ゆきむすび」の新米(購入はこちら)、山形・最上川の紅花の羊羹(購入はこちら)・饅頭・お茶、静岡・掛川の深蒸し掛川茶、兵庫の日本酒「環」(福寿「環」購入はこちら、白鷺の城「環」購入はこちら、大関「環」購入はこちら)と各地の名産品がそろい踏み。この味をどうか未来に残したいと思わずにはいられないひとときになりました。

まとめ
地域コミュニティの在り方から食の未来に至るまで、さまざまなことを考えるきっかけとなったこの日のイベント。自分にできることはなにか、改めて思い返した参加者も多かったのではないでしょうか。今後の「Community Dining Project @虎ノ門」の動きにも注目したいところです。
本イベントで使用した食材一覧
※記事掲載順
- 兵庫の但馬牛「黒田庄和牛」:購入ページ(https://www.ja-town.com/shop/c/c280102/)
- 石川・能登の巻鰤 :購入ページ(https://notostyle.jp/notonarisan/nanao/)
- 石川・能登の甘酒 :購入ページ(https://notostyle.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=2938094)
- 滋賀・琵琶湖のびわます :購入ページ(https://cocoshigashop.jp/ic/cat-000)
- 滋賀・琵琶湖の鮒ずし :購入ページ(https://cocoshigashop.jp/ic/cat-000)
- 滋賀・琵琶湖の日野菜漬け :購入ページ(https://cocoshigashop.jp/ic/cat-000)
- 岐阜・長良川の鮎の白子のうるか :購入ページ(https://jyurokucho.stores.jp/)
- 岐阜・長良川の焼きほぐし :購入ページ(https://jyurokucho.stores.jp/)
- 三重・鳥羽志摩のアイゴのつみれ :購入ページ(https://www.amigo2.ne.jp/~s-nansei/products.html)
- 宮城・大崎の新米「ささ結」「ゆきむすび」 :購入ページ(ささ結https://www.sasamusubi.jp/、ゆきむすびhttp://www.komepro.org/)
- 山形・最上川の紅花の羊羹 :購入ページ(和菓子ぬまざわ TEL・FAX 0238-85-2374、白鷹町ふるさと納税サイト https://www.town.shirataka.lg.jp/1364.htm)
- 山形・最上川の紅花の饅頭 :購入ページ(松島屋 TEL 0238-23-0212、FAX 0238-23-0244)
- 山形・最上川のお茶 :購入ページ(紅花茶:白鷹町観光協会 TEL 0238-86-0086)
- 兵庫の気候変動と闘う日本酒「環(めぐる)」:購入ページ(福寿「環」https://shushinkan.net/?pid=163364604、
白鷺の城「環」https://www.sake-tanaka.com/products/meguru、
大関「環」https://shop.ozeki.co.jp/i/0001099-0000-01-00?_ga=2.49327078.1587116948.1763370160-1187193079.1757399929)
「ひょうご五国 食物語」:購入ページ(https://kobe-yomitai.jp/book/1838/)